alt Re: 静かなるベルセルク 第一章「ミナモと白衣と語りネズミ」完結 ( No.19 )

日時: 2009/02/07 18:25
名前: ところてん

「これが……あなたの技術」
「まあ、そう言われればそうなんだけどな。これは俺がロケット団で下積みしていた時にやったものの一つだ。他にも作ろうと思えば、いくらでも作れる」
 ただ――と男は言う。
「ただ? どうだっていうの?」
「能力なら、の話だ。感情なんかを操る方法なんかはまだ、俺は知らない。まあ、操れたら操れたで問題ありそうだけどな」
「そう? これだけでも十分に凄い技術だと思う。こんなのを作るあなたはまるで、化物使い――そんな感じね」
「化物までは認めるが――使いってのはやっぱりどうかな。俺はこんなやつを――使いこなせるとは到底思えないけれどね」
 そう言って、ホムラは見上げる。
 つい先ほどまで、普通のポケモンだったそいつを。
 ドーピング剤のオーバートースにより、血液中化学物質の濃度は極限まで上がる。全ての神経は過剰なほど鋭敏になり、体のありとあらゆる器官が悲鳴を上げる。脳みその中のメモリーのマスターコードを奪い直接インストールし覚えられる限り覚えさせられた強烈な奥義の数々。脳内興奮物質の異常分泌と心拍数の危険なほどの跳ね上がりによって、永久に充血した緋色の目。筋肉組織がぶちぶちと音を立てて切れ、大量に作られる成長ホルモンが見る見るうちに再生させ、体は巨大化する。
 まさに、化物(ばけもの)。

 そいつは咆哮を上げる。
 有り余るほどの新しい力を手に入れた喜びか、自らの感覚により世界が萎縮した悲しみか。
 その感情は、わからない。
 
 グアアアァァァァァァッ!!


 第二話 
 暗闇に浮かぶ瞳 
 Nemo fortunam jure accusat.


 1.からだ

 夜の帳と夕の炎が殺しあって出来た空が天の果てで混ざりあっている。落ちてきそうな空の下には森然と木々が生い茂っていて、深夜でもないのにいっそう夕闇の色を濃くしていた。
 森の横には、公式道路がひっそりと延びている。だが人の姿は見当たらなかった。理由は簡単、都会と田舎をつなぐ道、キンセツシティとシダケタウンをつなぐこの道路はもともと人通りが少ないのだ。シダケにコンテストがあるとしても、所詮は初級ランクのコンテストであるし、数年前の騒動でふさがっていたカナシダトンネルが通じたためにキンセツから来る人は大分減ったものだ。
 そして、道路から外れた森林の中へ向かう細い土の道を進んで行くと、そのうち幅が木数本分くらいの川にぶつかる。水底の小石まで明確に見ることが出来る綺麗な川だ。
 川岸では火が焚かれていた。
 
「野宿するのは初めて?」
「当然」
「そっか。野宿だって、山とかでやらない限り危なくないから大丈夫だよ。この辺じゃヤバイポケモンなんかいないしねー。ロゼリアくらいなら僕が踏めば一撃」
「……そうじゃない」
 マリルは不安そうに口を尖らせ夕刻の彼方へ向けて心の内を叫ぶ、
「ぼくが不満なのは、何で夕飯がないのかってことだぁっ!」
 大声が夜闇と木の間を駆け抜けて、消える。
 大音量を浴びたミナモは、目をパチクリとさせていた。
「――あのな、ぼくはな、お腹が減ったんだ」
 そういわれて、我に返ったミナモは顔をぶるぶると振り、
「ああ、ごめん。今、持ち合わせがなくてさー。ポケモンセンターに世話になるまでだって二日はカロリーメイトしか食べてなかったんだ。明日の分しかないし、我慢してよ」
 今度はマリルが唖然として、
「二日それだけってお前……よくあんなに走れたりしたな。ぼくなら途中で、腹が減って死ぬぞ」
「あはは、根性根性!」
 ミナモは赤い帽子を荷物の上に載せて、長い黒髪を揺らしている。綺麗な肌が焚き火により艶やかに見えた。
 ホムラと別れてからまだ半日も経っていなく、とりあえずミナモは行く先もないのでシダケタウンに行くことにした。と言っても、シダケタウンが目的なわけではなく、その北にあるフエンタウンが目的である。公式道路のままハゲツゲタウン沿いに行ってもいいのだが、シダケタウンから山道を行ってもフエンタウンは近いのだ。そのことをミナモは小さい頃のタウンマップ熟読で知っていた。
 焚き火が赫焉と盛っていて、辺りは真昼のように明るい。
「くっそー、飯に不便したことなんかぼくはないのになあ……ちくしょう、しょうがない腹が減ってるのを紛らわすためにぼくは水浴びでもするかな」
 マリルはそう言うや否や、焚き火で照らされたみずみずしい肌を震わせながら緩やかに流れる川へと飛び込んだ。ざぶーんと水しぶきがあがり、ミナモの足元まで届く。
「あ、いいなー。ぼくもしたいな。最近、お風呂入ってないからなー」
 ミナモはそういうやいなや、立ち上がって黒い上着を脱いだ。半そでからのびた白い腕が焚き火の明かりでいっそう美しく浮かび上がる。とても、細い線をしていた。
「ここは水が綺麗だ。やっぱり、上流がシダケタウンのほうにあるからかな」
「キンセツの川はとても見れたもんじゃないしね。都会の水は汚いのさ。いくら水道管理局が管理を徹底しても、空気が汚ければ意味がないし」
 マリルは川の水に目から下をつからせながら、まるでひょうたん島の具合でみなもが服を脱ぐのを見ていた。
 そして、ふと思いつく。
 あいつの性別ってなんだっけと。
 ミナモの外見はまるっきり女のような、というか女そのものである。そういえば、自分も初対面のときは女だと思っていた。けれど、”僕”とか言うミナモの言動も行動も態度も男のように感じる。でも、男の言葉でしゃべるときの声は女の声だし、腕に抱かれるときだって男に抱かれているときとは何か違うようなものを覚える。それに、ミナモはとてもいい匂いがするのだ。そういうところから考えると、ミナモは女のような気がするのだが……
 いや、まさかとは思う。
 だったらば、こんなにどうどうと服を脱ぐはずがない。女の子なら、デリカシーとかいうやつがあるはずである。そんな言葉、頭の中で使ったのすら初めてだったけれども。
「む、マリル、じろじろ見るなよー。オスだろお前、興味あるのかー?」
「う、うるさいな……」
 やっぱり、男なんだろうな。
 脳内の疑問にピリオドを打ってマリルはミナモとは逆の方をむき、視線を川の水に移す。
 水が流れている。
 水に浸かる、自分を感じる。
 自分は水ポケモンなのに、こんな感覚は初めてだった。いや、初めてというより久しぶりという感覚がする。だが、実際には久しぶりではなく水に全身浸かったのは”この”マリルになってから初めてだ。ホムラが言うに自分には”経験”のメモリも入っているらしく、水ポケモンとしては当然である川や海などの体験はあらかじめデフォルメとなって体の感覚に刻み込まれているのだ。”知識”として知っているものではない。水という物質に触れる感覚を”この体”は知っている。けれど、”マリル”は知らないのだ。
 そして、前世でも遙か昔でもない――自分の知りもしない過去から、随分と間の空いた期間があって――ゆえの久しぶり。
 自分は、”今の自分”の前から存在していた。
 このマリルという容れ物は前から存在していた。
 ホムラが自分を改造する前に自分はいた。
 その頃の自分を、今の自分は知らない。
 その頃の自分は、この水に浸かったこともあっただろう。
 けれど、今の自分は知らない。それは知らないことなのか、知っていることなのか。
 マリルは少し悲しくなる。
 こんなに冷たく、こんなに端麗で、こんなにも大きな自然を自分は当たり前の用に感じてしまっているのだ。本来ならば初めて感じた自然に驚嘆し、打ちのめさせるはずなのに。
 けれども、”意識して”初めて感じる自然は驚くくらいに綺麗で、どんな人工的なものよりも感傷的で、冷たい現実よりも温かだった。それだけはまぎれも無い真実。自分のあられも無い感情。
 自分は、間違いなく、ここに存在している。
 新しく生まれたぼくは、確かにここに生きて、川の流れを感じている。
 
「よっしゃー! 入るぜー僕も!」
 ミナモが後ろで叫ぶ。マリルは雄大な自然を余すことなく全身で味わっている。焚き火が燃えていて、新しい息吹が木の根元で萌えている。綺羅星が踊り、道路からも世俗からも外れた場所の夜が段々と更けこんでいく。
 ざぶーん、と水が踊る音がしたのでマリルは後ろを振り向いて、

 とんでもないものをみた。





 得体の知れない闇という表現が正しい。人の気配はあるし、機械の唸る音とか排水溝の音とか生活音だってする。けれども、視界が機能するぎりぎりの暗さや入り組んだ通路のかしこにある研究施設を見ると、ここに人間がいることが奇妙に感じられる。
 施設の一室にある部屋の中には黒い帽子を被った男がいた。ただでさえ薄暗いこの施設なのに、男のいる部屋は視界が機能しない暗さだ。黒い服装をしている男が闇に溶けているようだった。
「狩猟者(ハンター)のアクタ。参りましたデース」
 茶色くパーマのかかった癖毛を帽子からだし、髪と同じ色の髭を生やしたアクタは暗闇で立っている。
 アクタの視線の先には何かが存在している風には見えない。けれども、そちらに話しかける。
「任務1A−Eの件デースが……任務(ハンティング)を失敗してしまいましたデース」
 アクタの脳に浮かぶのは、青色のポケモン。
 奥歯を噛み締め、拳を握る。
 室内に沈黙が流れ、とうとうアクタではない人間が言葉を発する。
「――珍しいこともあるものね。あなたが失敗するなんて。初めてでしょ?」
 アクタのすぐそば、それでいて暗闇の彼方からの言葉。声色は女のものであると推測できるが、妙に違和感を感じる。
 アクタは女の言葉を耳にして、顔が強張った。
「……申し訳ないデース」
「なあに、失敗なんて誰にでもあるわ……ところで、1A−Eとはどんな内容だったの?」
 闇の先にいる声の主は、酷く興味がなさそうであった。そうなのにも関わらずアクタの顔が緊張しているのは相手がよっぽど恐ろしいのだろう。
「”化物使い”ホムラが作ったマリルについての件デース」
「ふーん、彼のことだったのね。それで?」
「任務の内容は別施設への運搬途中に逃げ出したホムラが作ったマリルを捕まえることデース」
「えーと、マリル? ホムラったら、今度はどんなマリルを造っていたの?」
「全能力の大幅強化はホムラのデフォルトとして、その強化に重ね――」
 少し間を空け、言葉を紡ぐ。
 思い出すのは、絶対に人のものではないとわかるような声。
「脳にあらゆる仕掛けを施した、人間の口を聞くマリルデース」
 暗闇の向こうにいる人間の息を呑んだ様子を感じ取った。当たり前だ。凶暴化させることなど今の人間の技術じゃ簡単だが、人間のですらわかっていない脳を弄繰り回したあげく、言葉を話せるようにしたなんて実験は前代未聞だ。そのような前代未聞さが、”化物使い”と言われる所以なのだろうが。
「――それで?」
「申し訳ないデース……ホムラ博士の裏切りと余計なお邪魔虫(アクシデント)のおかげでマリルを取り逃がしたデース」
 再度の沈黙。アクタは逃げ出したいくなった。自分に与えられた任務と結果を思い出す。最初はいつものような任務だと思っていたのだ。と、いうよりポケモン一匹を捕獲するなんて任務はいつもより簡単な任務だった。だからアクタは近頃使いっぱなしのメインポケモンを休ませるつもりで手持ちをいつもの半分にしたあげく、サブポケモンで任務へと向かった。
 そう、簡単な任務だったのだ。
 あのマリルが喋りさえしなければ。
「あのホムラが……裏切ったのね……まあいいわ。彼には既に必要ことはやって貰っていたし。ユダの方は他の奴に任せるとしましょう。追跡者(チェイサー)でもつけておけばすぐ見つかるはずよ」
「申し訳ないデース」
「そして”そのマリル”は貴重な存在ね……今後の計画にも役立つかもしれないわ――なにより、彼がいなくなった今、彼の残した資料は大切だもの。探索者(シーカー)の一人でもつけておきましょ」
 そして、
 不意にアクタの感じていた女の違和感が無くなった。
 アクタは眉根をよせる。一体、何が起こったのかと内心で疑問を思う。
 すると先ほどまでの声色とは違う女の声が、
 「それにしても」
 と言った。
――声が変わったデース……
「きみ、次の任務からは手を抜いてもらっちゃ困るよ」
 アクタはどきりとした。表情に出したつもりは無かったが、女はそれをやすやすと見抜いたようだ。
 しかも、先ほどとは声色どころか喋り方まで違う――違和感はなくなったのだけれども。
「あなたの実力でそうやすやすと負けるわけないでしょ? いつも万全の体制で行ってもらわないと困るよ。遊びじゃないんだから? わかってるね? ”自傷(ライクダメージ)”」
 その名で呼ばれて、目つきを今まで見せなかったような鋭いものにした。
「――返す言葉もないデース。けど、あのマリル。ただのマリルじゃないデース。レベルが違う――今後も何をするかわからないデース」
「そのあたりの情報収集はシーカーに任せることにするわ。何かわかるまで、あなたは別の任務についてもらうことにしましょ。しばらくしたら、また誰かを通して伝えることにするわ」
 いつのまにか、女の声色と口調は違和感のあるそれに戻る。
――さっきのは一体……?
「……了解デース」
 そして、報告が終わったことにアクタはほっと胸をなでおろした。噂に聞いていた、この闇の先にいる組織を動かす人物はもっと恐ろしいものだったからだ。失敗したという報告をした瞬間ストライクに首を切られるとか、部屋に入った瞬間にエスパーで全身を破裂させられるとか。おかげで久しぶりに冷や汗を流した。
「あ、そういえば」
 アクタはまだ何かあるのか、と身体を強張らせる。
「あなた、さっきホムラと――そう、アクシデントって言ったわね。一体、誰なの? 組織にたてつくんだもの、聞いておく必要があるわ」
「ああ」
 脳裏に浮かび上がるその姿。
 アクタは闇に向かって、まるで幽霊にでも話しかけているように言った。
「赤い帽子を被った少女のことデース」

メンテ

alt Re: 静かなるベルセルク 第二章「暗闇に浮かぶ瞳」開始 ( No.20 )

日時: 2009/02/07 18:26
名前: ところてん

 2.くしゃみ

 マリルは手に持ったカロリーメイトが恥ずかしくなって動き出してしまうくらいに凝視しながら、普通のポケモンよりずっと凄い脳みそで考えている。一匹以外のもう一人はタオルを巻いたままびしょびしょになった髪の毛を焚き火で乾かしていた。
 月と星と焚き火の色をした夜がある。
 思う、
 今までずっとホムラの研究室で暮らしていたし、人間の身体についてなどホムラによって植え付けられた”何か”の一つである『知識』と『経験』のメモリによって何かがついているとかついていないとかそういうことを知っているだけであった。それに、自分は服の上からでしか見たことが無い。
 けれど、あれは、間違いなく、
 女の身体
 であるとマリルは凄く思う。
 下半身の物凄く確信的な部分は付けていたからいいし、タオルだってしてた。けれど、マリルのことなど気にしていないかのように、油断すれば大事なところだって見えて
 うあ
 思い出すだけで青いからだが赤くなっていく気がする。起伏はなかったけど、下から上へ向けてしなやかで艶やかなあの白いライン。焚き火に照らされる肢体と、水で濡れそぼる髪は
 うああああっ
 それでも意識しないようにと思えば思うほど意識してしまうものなのである。思い返してしまう。幼さの残る儚げさと、女という生き物が生まれつき持つオスを魅了するためにその体に秘めたなまめかしさ。
 目の前にいる、焚き火越しのやつを覗き見る。黒くて長いロングヘアは女の子だし、真っ白な肌も女の子だし、っていうかもう女の子にしか見えない。
 けれども、何故かミナモはあたかも自分が男であるような言動と行動をする。
 ただし、それには例外もあってトイレの仕方は知ってるし胸だってそれなりに隠す。後者は、意識が薄いのかただの本能的なのか知らないが、前者に関しては理解しがたい。トイレを座って済ますということは、自分が女の体をしているという認識をミナモが持っていることになる。ただ、男子トイレに入ってたりするわけだから、ますます理解しがたい。
 マリルの頭ですら、こんがらがってしまう。
 まさかこいつ、
「お前はバカなのか!?」
「な、なんだよいきなり!」
 髪の毛をかわかして、服を着終えたミナモはまだ湿り気のある髪の毛を揺らしながら言う。
 相変わらず顔を直視できない。先ほどの裸体を思い返してしまう。そして、再び思考の沼に沈み始める。体は間違いなく、女である。そして、ミナモは女のトイレの仕方を知っているのだろうし、女として隠すべき場所はおぼろげながら認識しているようだった。
 何故、おぼろげなのか。
 何故、男子トイレなのか。
「何? 僕の顔になんかついてる?」
 いつのまにかマリルはミナモをずっと直視しており、きょとんとした顔をミナモはしていた。曖昧な返答をして、ぶるぶると顔を振ってある決断をする。
「なあ」
「何?」
「お前さ……」
 ここで、女だよな、と単刀直入に聞くのもどうかと思ったので、マリルは何重にも聞きたい質問をオブラートに包み、
「女、ってよく言われないか?」
 それで思い出した。
 ホムラの研究室で、ミナモがアクタに『お嬢さん』と言われる度に怒っていたことを。
 すると、ミナモは男なのかという話になるわけであって、
「あーそうそう!」
 ぶんぶんとミナモは首を縦に振って肯き、
「ホント、会う人みんな僕のことを女みたいに扱ってさ! 僕もいい加減うんざりしているところなんだよね!」
「まあ……無理も無い気がするけど」
「何が無理も無いんだよ!」
「じゃあ、聞くよ」
 とうとうマリルは、真相を聞くことにする。自分がどんなに仮説を立ててもきりがない。
 けれど、ここで何を言われても結局はどうしようもないということに今更気がついて――
「お前は、男なんだな」
 ミナモはぷうっと白くて女みたいなかわいい顔を膨らませて、女みたいに長くて綺麗な髪の毛を揺らして、それはそれはもう女みたいな表情と声で、
「きまってるでしょ」
 と言ってのけた。

 マリルはまた、悩み始める。





 アクタの去った部屋で、女は息を殺して潜んでいる見たく静かにパソコンを睨みつけている。画面の仄かな明かりで女の顔は浮かび上がると思いきや、パソコンの前には誰も座っていないように感じるほど人影が無い。もしかしたら、もともと存在していないのではないかとすら思われる。
 画面では、動画が再生されていた。街中の風景やポケモンセンター内部の様子が映し出されていて、画面の隅には数日前の日付と時間に『キンセツシティ』とある。
 そして、何度か画面に映る動画が流れては変わっていった。
 しばらくして女がやっぱり、と声を漏らし、
「まさかとは思ったけど……ややこしいことになりそうね……」
 マウスを動かし、再生されている画面を止める。停止された画面には、赤い帽子に黒い髪。黒い服装に細い体躯をした人物が歩行している姿の横側が写っている。そして、画面の下のほう。ちょうどその人物の足元あたりにいるポケモン。
 青色と白色と赤色を持ったみずねずみポケモン。
 電話の受話器を取り、番号が音を立てて光りだす。





 あんなに煌いていた炎は、”みずでっぽう”であっさり消えた。
 あたりを本当の闇が駆け巡る。けれども、限りなく黒に近い紺色の空では綺羅星とレモン型の月が世界とミナモたちを照らしていた。
「ねえ起きてる?」
「……死んでる」
「あそ」
「……」
「……」
 夜の静けさの中で聞こえる虫やポケモンたちの鳴き声。 
 結局、負けたほうはマリルであって、
「なんだよ」
 ミナモはぼそっと、
「うん。お前ってさ、喋れるじゃん」
「何を今更」
 それでさ、と続けて、
「喋るってどんな感覚なの?」
 毛布にくるまって、ミナモは暗夜の空に浮かぶ星を目でつないでいる。
 ミナモとは焚き火の跡を挟んで逆側にいるマリルは、切り株によっかかって焦げた炭素の塊を見つめていた。
 ミナモは先ほどのマリルのように、マリルが喋ることに関して死ぬほど考えてなどいなかった。既に馴れてしまったというのもあるし、戦闘の時以外のミナモの脳みそはちゃらんぽらんでマリルの方がよっぽどかしこいというのもある。だから、なんとなく口に出た言葉だった。
 しかしマリルはため息を一つ吐いて、
「――お前、自分がどういう仕組みで喋るかわかるか?」
 不意を疲れたミナモは戸惑いながら、
「え、僕? えっと、うーん……そだね、特に意識したこと無いからわかんないかもしんない」
「そうだろ、だからぼくにもわかんないんだよ」
 意識などしたことは無かった。意識をしようとも思わなかった。自分を他とは違う特別な存在であると認識したくなかった。生まれたその瞬間から、何も違和感も覚えず、ポケモンの喉が空気を震わせて出るような言葉を喋れる自分が、この世で一番憎かった。
 普通のポケモンの方が、良かった。
 けれど、ホムラを――
「あんまり」
 マリルは色々な感情を殺した平べったい声で
「そういうことは、聞かないで欲しいな」
 特別視はされると一番嫌なことだ。自分の場合、どちらかといえば他のポケモンよりも優れているのだが、優れていると見られることが嫌だった。まるでポケモンじゃないみたいに見ることも。けれど、自分がポケモンなのも忘れて欲しくなかった。必ずどこか心の片隅でこいつは得体の知れないやつと思われている。そう思うと、胸が苦しくなった。
 怒気をはらんでマリルは言ったわけではなかったし、なるべくそんな胸のうちを悟られないように喋った。むしろ、ミナモはそういう目で見ていないような気もしていた。だからそこまで本気ではなかったのだけれどもミナモは、
「あ……ごめん……」
 と、消え入るようにそう言うと、しばらくもぞもぞしていた後に毛布の中へと顔を埋てしまった。
 ……
 ……
 ……
 ――野郎、すねやがった。
 マリルは目を閉じて黙っていた。それでも、なぜか気になって仕方が無いので妥協した片目だけを開いて焚き火跡越しに見える毛布の起伏を見てみる。何故か毛布は寂しげで、沈んでいるように見えてしまった。
 ああ、くそう。
 こんな程度ですねるようなやつなのか。面倒くさい。
 ほうっておけばいい、そう結論付けようとしたのだが何だか足がかゆいみたいに、やっぱり気になって仕方が無い。
 だから、マリルは別の方法を可決する。
「おい」
 返事は無い。
「それじゃあ。ぼくもお前に質問する」
「…………え?」
 やっと、ミナモが毛布から顔を出した。
「答えてくれたら、許してやってもいいよ」
 別にこいつがかわいそうだからというわけではない。あくまでも、自分のためである。ミナモのわけのわからなさを少しでも理解しておく必要があるのだから。
 みるみるうちにミナモの顔は明るくなり、
「うん! いいよ。お兄さんが何でも答えてあげちゃうよ」
 ミナモはゼニガメのように顔をひょっこりと毛布から出している。先ほどの沈んだ様子は夜空の彼方に吹っ飛んでしまったらしい。照らされた白い顔が、まるで月光花のように可憐に微笑んでいる。
 心の中で、ため息を一つ。
 苦笑もする。
「――単純なヤツ」
「へ?」
「――いや。そうだな、質問か……」
 咄嗟に言ったものだったために、当然ながら質問の内容など考えてもいない。何かミナモについて不思議なことはないかと、必死で自分の脳みそを検索する。
 そしてマリルは見つけた。
 お前の性別はなんだ
 いやいやと思う。
 それは先ほど聞いたばかりの質問だ。それに、その頭のパンクしそうな難題を頭の奥底にしまいこんでおくことにしたのだ。考えていたら、日が暮れる。知らなければいけないことだが、知らなくてもしばらくなんとかやっていけるため後に回すことにした。
 マリルは結局、
「ええっと……お前って、旅してるんだろ」
「そうだけど。何を今更?」
「じゃあ、何で旅をしてるんだよ。別に意味も無くフラフラしてるわけじゃないんだろ」
 つまりのところ、マリルの質問は旅の目的である。こんな若いやつが一人で旅に出るなんていうのは、何かと目的があるのだ。ポケモンリーグを目指すしかり、トップブリーダーを目指すしかり、コンテスト制覇えとせとら。
 ああ、そういうことねーとミナモは頷いて、
「別に、答えたくないなら答えなくていいよ」
 マリルは念のためにそう告げておく。だが言った後で、何か矛盾していないかという疑問が浮かんだが力ずくで心の底に沈めた。
「ううん……あんまり話さないようにしてるんだけどね。お前はこれから僕のポケモンなんだ。だから、僕と一緒にいる限りは、お前は僕の目的のために同行することになる。だから、言っておくことにするよ」
 ミナモはそう言うと、目をつむる。
 マリルは、何やら神妙な雰囲気を出したミナモをじっと見つめ、次の一言を待つ。
 永遠に等しいような沈黙がよぎり、
 
 そして、ミナモは口を開いて旅の真相を語り

「はっくしょん!」

 ……旅の目的らしかった。
「おい、お前! ふざけてんのか!」
「ち、ちがうよ! このタイミングで出るなんて僕も予想外だよ! くしゃみ自重しろよ!」
「もういいよ。ぼくは寝る!」
「あ! 待って! 今のは映画が始まるときの効果音だと思って! だから……」
 はっくしょん。
 はっくしょーん、はっくしょーん。
「……じゃあ今のは映画が終わったときの効果音だな」
「……くしゃみ何か嫌いだ……」
 ぐす、とミナモはうつむく。
「わかったよ、わかったって。ほら、話せよ。次くしゃみしたら寝るからな」
「うん……えっとね、僕が旅を始めた理由は……」
 ミナモが先ほど繋いだ綺羅星たちは星座となり、夜空をかざっている。月明かりの下では様々なポケモンたちが自分たちだけの静謐な夜を楽しんでいた。一日の疲れを癒す終わりの夜でもあれば、一日の始まりにもなる夜でもある。その中で一人と一匹が向かい合って座り、手探りのつたないコミュニケーションをしている。

 そしてまた、どこかで誰かのくしゃみが聞こえた。
メンテ

alt Re: 静かなるベルセルク 第二章「暗闇に浮かぶ瞳」開始 ( No.21 )

日時: 2009/02/07 18:26
名前: ところてん

 3.赤き瞳、蒼き運命

「――二人は消えていたんだ」
 ミナモは、思い返しながらマリルに語る。
 洗いざらい話してしまいたい気分であった。夜になると、何故か何でも話せる気がしてきた。時には恐怖を掻き立てる鋭い闇が優しく心の扉を開けてくれる。そして、普段ならばこの話したいと思う気持ちは心の奥にしまわなければならないのだ。理由は簡単であり、相手がいないからにきまっていた。
 けれども、今回はマリルがいる。
 会話の出来る存在が欲しかった。一人で耐え忍び、夜の冷たい風を受けるのが不安でたまらなかった。何も喋らない日が過ぎ、他人の喋っている声を聞かない日が過ぎ、何も思わない日が過ぎた。何度も帰ろうと思い、その度にどうしようもない苦しさに締められ、草木相手に愚痴をこぼし、暗闇相手に何度もすすり泣きをした。
 そして、ずっとそうなるはずだった。
 けれど、今は違う。
 このマリルの存在に、ミナモは自分の存在を預ける。
 この心にあるもの。いつかは誰かに話そうと思っていたこと。これを話そうと思う。発端から、記憶に無い空白から、楽園の日々から、唐突に終わったそれまで。
 両親から、赤い帽子から、記憶のなくなってしまった日々から、皆との日々から、好きだった人たちがいなくなってしまった日々まで。
 先生。
 カスカ。
 二人は一体――どこにいるんだろう?
 ミナモは静かにマリルに語り続ける。
 




 それから、だいぶ時間がたった。
「――と、そんなところ。僕はこういやって旅をする以外は無いわけなのさ」
 胸の中のものを全て吐き出したミナモは、少し自嘲気味に言って締めくくった。マリルは、眠っていたのではないかと勘違いするくらい瞑っていた目をようやく開き、
「……つまりのところ、人探しってことか?」
「そうだね。手がかりも何も無いからいつ終わるのかわからないし終わりが来るのかもわからないけど」
 今度は寂しそうな様子でミナモは言う。
 マリルはミナモの心情を察して口をつぐんだ。沈黙を紛らわそうと空を見上げる。目に入るのは、こんな話をしても下界のことなど知ったことかという具合で輝き続けている星と月。
「僕は別に、それでもいいんだ」
 上げていた顔を戻し、
「それでも? どういうこと?」
「うん。このまま、ずっと先生とカスカを探す旅をしてもいいなって」
 先生、それはミナモの話によるとミナモの親ではないけど親みたいな人……で大切な人だったらしい。カスカはミナモと同じ存在、言うなれば仲間だ。
「でも、お前はまた皆で暮らしたいとは思わないのか?」
 そして二人はある日行方不明になった、そう先ほどの長い話で言っていた。
「そりゃ、思うよ。思わないわけが無いよ。楽しかったから。今でも時々、寂しくなるとあの頃に戻りたいって思うし、ちょっと泣きそうにもなる」
「じゃあ、何で?」
 マリルは真っ直ぐにミナモの顔を見据えた。ミナモはマリルの方に顔を向けているが、マリルの方を見てはいなく、焚き火の炭を無意識に見つめているようだ。
「結局、いつかはそんな日々は終わるからね」
 あらゆることは、いつのまにか、それでいて明確に、そして察知することが出来て――終わるのだ。本人がそれを望んでいるか望んでいないかなど、微塵も関係なく。いつの時代も、どこの世界でも、変わらない不条理。生物が死ぬように絶対的、それでいて夢のように不安定。
「僕は捨てられた子供だったらしい。そして、先生が僕を拾って育ててくれた。でも、ずっと僕は先生の下で暮らすわけには行かない。僕らは嫌でも成長して、いつかは一人立ちすることになって――だから、楽しい日々は終わる。僕は、それを先生とカスカが消える前から考えるようになっていたんだ」
 マリルは何も言わない。
 全ては終わるために、始まり、続く。
「結局、僕が考えを纏める間もなくそんな日々は終わっちゃったけどね。僕はおかげで自分から現実にぶつからないで済んだんだ。先生とカスカがいなくなっちゃったことで、日々が終わった。僕は二人がいなくなったせいにして楽しい日々が消えてしまった現実を受け入れられるんだ。だから、そう考えるとまた、現実にぶつからないでこうやって旅を続けていくのもいいかなって思う。誰かのせいにした現実と、自分のせいの現実の重さは違いすぎるよ……」
 風が吹いた。
 ミナモの見つめていた炭は、ころころとどこかへ消えてしまう。
 もう、何度目かわからないくらいの沈黙が支配する。だが今度のは、今までよりもいっそう深い沈黙だった。先ほどまで心の紐を解いてくれた闇が、今度は沈黙の重さを掻きたてる。
 随分とたってから口を開いたのは、マリルだった。
「お前、バカだな」
 ミナモはいつもならば大声を上げて反論するだろう。けれど、今回は何も言わず、驚いた顔をしてようやくマリルの方を向いただけだった。
 マリルはやっと目があったミナモに向けて、言う。
「重さとか責任とか、難しいこと言ってるけど、そんなこと関係ないじゃん。お前はその先生とカスカっていうやつに会いたいんだろ。会って話をまたしたり、いろんなことがしたいんだろ」
「うん」
「なら、いいじゃん。あるものがいつ終わるかなんて。そんなこと言ってたらきりがないよ。お前の言い分だと、お前とぼくの関係がいつか終わるのか? そんなことを気にするのか?」
「それは……」
「ほら」
 マリルはまた目をつむる。
「お前はバカだ。バカが難しいこと言うなよ。会いたいなら、会うためにがんばればいいんだよ」
 考えることが出来るということは、面倒だなとまた思う。
 言葉を話せなくても、他のポケモンだって自分のように物事について考えるだろう。でもミナモが言う責任とかそういうことについては考えるだろうか。考えないか、それでも少しだと思う。
 考えすぎて、自分の気持ちに嘘をつく。言い訳をする。バカだよな、と心底思う。でも、自分もいつかそういうことを――そう、前の自分のように自由になりたい願望に対して嘘をついたように――なるかもしれない。
 喜びであると考えなければ喜びを感じられないし、悲しみであると考えるから悲しむ。
 考えることは面倒くさい。それは喜びを得ることの代償のように。
 
「ねえ」
 マリルに言われてずっとうつむいていたミナモが、顔を上げながら言った。
「……何」
「何だか、ごめん」
「何が?」
「いや……うん、そうだよな」
 ミナモは今度こそ、自分からマリルに視線を向ける。
 黒い色をした瞳。
「お前の言うとおり、僕は二人に会いたくて旅をしているんだ。だから、変なこと考えずに僕の心に従って行くよ」
「そうか……」
 黙っていたマリルは独り言のように、
「ま、お前がどうしようが、ぼくはお前について行くだけだけどな――」
「え?」
「――なんでもない」
 清夜の中で、
「ふぁ。僕もいい加減寝よう。話しすぎた」
 ミナモは盛大にあくびをしながら、涙目をこする。
「おやすみ、マリル」
 毛布を頭まで被って、ミナモはまどろみに体を預けた。喋りつかれたせいか、たちまちふくらみは動かなくなる。
 ミナモがいよいよ現実から一時的に離脱して夢の世界に入りかけたとき、ふと向かい側で同じように眠りにつこうとしているポケモンが、表情にも動作にも出さず、それでいて心の奥で酷く優しくこう言った。
       
「オヤスミ、”ミナモ”」

 二人の夜が閉じ、また朝がやってくる。
 




 と、思ったら大間違いであった。
 二人が寝てから数時間たち、月も夜の仕事を終えてそろそろ帰ろうかなという具合になった頃である。
 ずしん、と何かが聞こえた。
 そして、その音は定期的に聞こえるようになる。まるで何かの足音のように、ゆっくりどこからか響いていた。しかも、音は段々と音量を上げて行くのだ。仮にも、音が本当に足音であり、その音が大きくなっていくということは生物が近づいているということであって、
 いきなりの地震だった。
 まさに、大地の咆哮。
「うあっ!」
 マリルは、本当に跳ね上がって飛び起きた。あまりの振動に、小さいからだが浮いたからである。朝起きたら知らないおじさんが裸で同じ布団に入っていたという人間の目覚めよりも、激しく最悪に起きた直後は、何が起きたのかさっぱりでこれは夢なんじゃないかとすら思った。二度目の激しい揺れでようやく寝ていた意識が覚醒して、現実の出来事であると判断する。意識が戻ったとはいえ、マリルは動揺した。こんなに激しい揺れを感じたのは初めてであって――

 いや。
 初めてではない。
 まさかと思い、マリルは音のするほうを振り向き、
 そこにいた巨大な生物を見た。
 漆黒に浮かび夜を焼き尽くす緋色の双眸。
 見たことがあった。マリルの脳裏によみがえる。車をぶん投げられて、箱から転がり出たときはまさに死ぬかと思った。恐怖のあまりヘタリこみたくなりながらも、辛くも逃げ出した。そして、忘れもしない。新たな施設に送られて研究材料にされるはずであった自分の運命を、あらぬ方向へとひん曲げた原因。
「バンギラス……」
 自然と”知識”のメモリからの言葉を呟いた。
 見ただけでわかる。どんな攻撃でも傷がつきそうにない鎧のような体。背中に猛々しく聳えたつ、狂気と相手を畏縮させるなどいともたやすい鋭い棘のようなそれ。そして何より驚異的なのは、相手を圧倒する巨体。
 ありえなかった。マリルのメモリにはバンギラスの大きさは二メートル程度なハズだ。けれども、このバンギラスは2メートル以上は確実にある。地上のポケモンにしては、尋常じゃない大きさだ。それに、何より不思議なのはその紅炎と燃え盛るような閃々とした赤い目。
 グァアアアアア!
 あまりの咆哮に、木々が鳴いた。
 マリルは声を呑み、戦慄する。
「な、なんでぼくたちを」
 そして、はっとマリルは何かを思い出したように後ろを振り向いて

 今度は呆然とした。
 マリルの視線の先には毛布の起伏がある。
 それも、動こうとすらしていないものである。
「……えー……」
 ミナモは、この状況であろうことかまだ夢の中に居た。
 死ねばいいと、純粋にマリルは思った。このままバンギラスに寝返ってやろうかとも思った。先ほど、こいつについていくなどとほざいてしまった過去の自分がはずかしい。こんなやつについていったら三日で命を落としかねない。たとえば、火山が噴火して逃げなければいけない時とかにも、ミナモは寝ていたりするかもしれないのだ。
 マリルはそんなミナモから視線をはがし、対峙している現実へ目を向けた。
 そこにいるのは正真正銘の化物(バケモノ)。
 血と戦いと破壊しか脳みそにない、ベルセルク。
 皮肉なものだった。作られた二匹はこうして引き寄せられ――運命の上で対峙する。悲しき意識を持たされた者と、悲しき意識を奪われた者。
 二匹は戦わなければならない。一方は運命と、もう一方は――全ての生き物と。

 どうしようか、と思う。
 ミナモを起こそうか。いや、この状況で起きないのに自分が起こしても意味がないのではないかはともかくとして、ポケモンとしてそれはまずすべき選択である。
 けれども、マリルは別の選択をしたかった。
 別にこいつを一人でやっつけて、ミナモに褒めてもらおうという気などカケラもない。
 ただ、こいつは自分が戦うべきなのだと思う。そう、こいつは間違いなく自分の運命にかかわった野郎なのだ。プラスマイナスゼロで何も無かった起伏の無い自分の運命を、甘い汁と苦い汁の混じる波乱の運命に変えてしまったとんでもなく迷惑なやつなのだ。
 これは、責任を取らせる必要があるに決まっている。
 それに、
 初めて運命と対峙する機会なのだから。
 マリルは力を込める。
 勝てないかもしれないと思う。普通に考えてもマリルと最終進化系のバンギラス。伝説と言われていないポケモンでは間違いなく最強レベルのしかも、亜種。それにくらべこちとらかわいいかわいいと巷で言われるのが仕事のようなポケモンであるマリルだ。
 けれど、自分は違う。
 そんじょそこらのポケモンではない、と言われたマリルだ。
 そして――

「かかってこいや、このでかぶつ騒音ポケモン」

 なにより、ミナモのパートナーなのだから。


― Nemo fortunam jure accusat.
 (誰も運命を正しくは非難できない) ―


 WAZUKANA YORUNO KOTODAKEDO MINAMO TO MARIRU NO KYORI HA
 CHIJIMATTANOKANA? SOSHITE MARIRU HA DOUNARUNOKA!? 

→To Be Continued!!
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