icon 静かなるベルセルク 更新再開!

日時: 2009/02/07 18:11
名前: ところてん
参照: http://www3.pf-x.net/~green-minamo/
情報: fl1-122-135-121-220.tky.mesh.ad.jp

このスレッドを開いてくださりありがとうございます。
『静かなるベルセルク』の作者である、ところてんと申します。こちらの掲示板で稚拙ながらポケモン小説を書かせていただきますので、どうかよろしくお願いします。暇なときにでも読んでやってください。

既存の言葉を使って説明するのならば、これはライトノベルよりなものであるかと。そして、王道であり長編です。
巷のポケモン小説サイトでは何かと短編が多く、それも文学よりな小説が多く見られます。そこで私は、アニメのポケモンやマンガのポケモンのように『冒険もので長編』を書こうと思いました。
地の文章含め、未熟なところが多いですがどうぞよろしくお願いします。


※読むにあたって

流行の携帯小説のように、やけにエンターで改行を入れる行為をしたくありません。
そんなわけで、とても見にくい状況になっています。そういう場合は、インターネットエクスプローラーやsleipnirならお気に入りを画面左側にだし、この小説掲示板の映っている画面を調節してください。少し狭くすると、見やすくなると思います。


−小説紹介−

 ベルセルク計画
 そんな計画が、あった。
 悲しくて、儚くて、切なくて、そして静かな計画だった。
 
 一人と一匹は出会った。一人のほうはある複雑でめんどくさい事情で生まれた、どっからどう見ても女なのに男と主張するポケモントレーナーである。間違いなく変人。もう一匹のほうはある複雑でめんどくさい思いつきから生まれた、どっからどう見てもポケモンなのに生意気な口を聞くマリルである。間違いなく異端。
 一人と一匹の出会いが始まりだったのか、それとも久遠の昔から、そうあの悲しい計画の始まった頃から始まっていたのか、それは誰にもわからない。
 自分に生きる意味を見つけてくれた人を探すために、一人は旅をする。自分の生きる意味をこの世界から探すために、一匹は旅をする。
 
 行き着く答えはただ一つ。

 自分は、なんのために――
 
 Dominus tecum.



プロローグ >>1
第一章「ミナモと白衣と語りネズミ」>>2 >>7-15
第二章「暗闇に浮かぶ瞳」>>19-21
第三章「駆け巡る翼、暗躍する影」>>23
第四章「暗夜行路」


−ヒトコト−

別のところでもこの小説をうpっているわけですが、すっかりこちらを放置しておりました。更新を再開いたしますので、再びよろしくお願いいたします。
メンテ

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Re: 静かなるベルセルク( No.1 )

日時: 2009/02/07 18:12
名前: ところてん
情報: fl1-122-135-121-220.tky.mesh.ad.jp


 『プロローグ』

 Dominus tecum.

 それはそれは、かわいい女の子でした。

 その女の子の名前は、ミナモといいます。かわいい容姿に、かわいい名前。鬼に金棒――いや、ポケモン的に言うなれば、ドダイトスにタウリン、とでもいいましょうか。きっとタウリンを与えられたドダイトスでも、見たら尻尾を巻いて逃げてしまうと思います。それくらいにミナモはかわいい女の子でした。
 
 そんなミナモですが、お母さんを知りません。おまけに、お父さんも知りません。
 小さい頃から、ミナモは先生と皆から呼ばれる人物に育てられていました。
 先生が言うところ、ミナモは孤児というヤツらしいです。つまりは、捨て子。もしくは、なんらかの理由ではぐれてしまった、そんなところでしょう。
 初めてそのことを先生から聞いたとき、ミナモは知らない両親について考えました。一体、どんな人だったのかということからどうして捨てられたのかまで。けれどもそんなことを考えるのはすぐにやめました。
「私の親は、先生だよ」
 そう、ミナモは考えたからです。

 先生という大人は、他にもミナモと同じくらいの年齢の子供を何人か育てていました。
 先生は何の目的も無く、ボランティアで育てているわけではありませんでした。先生はある目的を持って、子供たちを育てています。そして、男の子のほうがその目的には向いていました。だから先生は男の子を育てたかったのですが、何人かのうち一人やむをえなく女の子を育てています。そういうわけでミナモを拾う前、今度こそ男の子が欲しいと先生は思っていたわけですが、どういうわけか女の子のミナモを拾ってしまいました。
 それはなぜか。
 答えは簡単。

 間違ったからです。
 
 人間なんて生まれたときはみんな猿――つまりは、マンキーのように同じ顔をしているのです。
 だから男の子と女の子の区別がつかなかった。
 それだけの理由です。
 単純明快。
 先生もさすがに間違えて女の子を拾ってきてしまったことには、おいおい気がつきました。ですけど、一度自分が育てると引き取った子供を『ミスっちまった』という理由で捨てるわけにもいきません。

 そういうわけで、今のミナモがいるのでした。



 ある日のことです。
 ミナモのいる孤児院では、それはそれは平和な日常が続いていました。
 
 ええ、ほんとにもう。
 その日までは。

 ミナモは二階の自室でいつものように、本を読んでいました。
 ポケモントレーナーになるために行う先生の訓練や授業が無い日は、こうして貪るようにミナモは本を読み続けています。ミナモは本が好きな子供でした。とは言っても、読む内容の本はというと、お喋りをするオオタチと男の人が冒険をするなどという子供向きのモノではなく、難しい漢字が散りばめられた実用書や専門書ばかりです。そんな本ばかり読んでミナモは知識を吸収していきます。ミナモは自分の知識が増える感覚が、たまらなく好きだったのです。

――進化についての現代の考察
――トレーナーとしての極意
――未発見のポケモンの種類
――ポケモンを悪用する集団についての把握

 本には色々なことが書いてありました。なかでも、ポケモンのことに関する本にミナモはひときわ興味がありました。ポケモンの本ならば難しい本も辞書まで使いながら、ミナモは熱心に読んでいきます。
 そうやって、ページをぺらぺら辞書をぺらぺらとしている時に、
「ミナモー、ごはんだよー!」
 という、大きな声が階下からミナモを呼びました。
 良い所だったのですが、仕方がありません。ミナモは本にしおりをはさんで閉じました。
 子供部屋のドアを開けて廊下に出ます。すると、いい匂いがふわっとミナモの鼻をくすぐりました。
 もう、そんな時間だったんだ。ミナモは急におなかが減って身体の力が抜けてしまいました。
 ふらふらとした足取りで一階への階段まで行き、ミナモはああ早く下に行ってご飯を食べよう。今日は何かなあと、最初の段差を降りようとして、

 落ちました。

 ええ、もう。それはそれは、盛大に。

 隕石でも庭に落ちてきたのではないか、と聞いた誰しもが思うくらいの音が響きました。
 現に、ミナモが階段からすごい勢いでゴロゴロとゴローン並みに転がり落ちた音は、階下にいた他の子供たちやミナモを呼んだ先生の耳にも届いていましたし、屋根裏で寝ていたコラッタがあまりの音の大きさに驚いたあまり、天井中をかけずりまわったあげく壁に激突して失神してしまいました。
 思いっきり頭から血を流しぶっ倒れていたミナモを見て、先生は蒼白になりながらポケモンセンターではなく病院へ連れて行きました。
 本気でミナモが死んだと思いました。

 いやしかし。
 幸いというか、しぶといとでもいいましょうか。
 ミナモは無事、助かりました。そりゃあ、チクチクと頭を縫いましたけれども。
 ですが、
 あんまりにも強く頭を打ったために、意識が吹っ飛んでしまったのです。
 ベッドの上で人形みたく寝ているミナモを、孤児院の子供が心配そうに見守っている。そんな光景が何日か続きました。
 そして、頭をぶつけてから大分たったころになってようやく、毒りんごを食べた白雪姫だったミナモは目を覚ましました。
 眠そうな顔でミナモはのっそりと半身を起こします。
 周りで心配そうな顔をしていた子供たちが、わぁと歓声を上げました。
 一緒にいた先生は胸をなでおろしたという風に、
「ミナモ。だいじょうぶかい?」
 と、優しく言いました。
 ところが、ミナモは呼びかけには応じません。ただ、眠そうな顔についた目から放たれる視線がふわふわと部屋をさまよっています。不思議に思った皆が、黙ってミナモの言う言葉を待ちました。
 しばらくして、ミナモはあくびをひとつ。
 そして、こう言いました。

「――僕は、だれ?」

 最初はミナモが悪ふざけをしているのだと思いました。
 ところが、皆でさまざまな質問をミナモにしていくうちに、
「もしかして……ミナモ……」
 予感は確信へと変わります。
 どうやら、意識のついでに記憶まで吹っ飛んでしまったらしいのです。

 さあ、とっても笑えない状況になりました。

 医者の言うところ、頭を強く打ちつけたための記憶喪失らしいです。マンガかアニメでしかありえないと思っていたので、先生は面食らいました。
 しばらくの間、ミナモが記憶を思い出さないかと皆で必死に質問をしたり、皆で遊んだ思い出をミナモの前で話したりと尽力しました。
 ですが、ミナモは一向に思い出せないでいるのか「そうなの?」「そんなことをしてたんだ、その人は凄いね」と言います。ちなみにその人とは記憶喪失前のミナモなわけですが。
 あんまりにも思い出さないので、ああもうだめなのか、と皆があきらめかけていた頃。
 先生はミナモの最初に言った言葉を思い出し、閃きました。

――『僕』は誰なの?

 記憶がないなら、記憶を作ればいいと。
 こうして、ミナモは二回目の人生を辿ることになったのです。
 

 これは、まだ物語が始まっていない頃のことに過ぎません。
メンテ

Re: 静かなるベルセルク( No.2 )

日時: 2009/02/07 18:13
名前: ところてん
情報: fl1-122-135-121-220.tky.mesh.ad.jp


 男は歓喜、いや、狂気に近いような声を上げた。
 そして、今、この瞬間に生れ落ちた”意識”が覚醒し声を上げる。それは人間の赤子のうぶ声に近い。もちろん意味的な部分である。
 人間の女のような、それでいて”絶対に人間の声ではないとわかるような声”。
「……ぼくは……おまえは……」
 人間とは違う喉をとおり、空気を歪に揺らした奇跡の”それ”。
「――誰だ?」


 第一章 
 ミナモと白衣と語りネズミ 
 Cogito, ergo sum

 1.マリル


 黒色の蚊帳に閉じ込められたような空の下、一台の車が轍を地面にヘッドライトによる光の軌跡を空に描きながら走っている。何光年も果てから命を燃やして放つ星の光も今夜ばかりは見えず、暗黒だけが我が物顔で世界を支配している、そんな夜だった。

 真っ黒な乗用車の中を覗いてみよう。
 前の運転席、助手席に加え後部座席。前後にわけて二人ずつ人が座っている。
 約一名を覗いた三人がスーツとかそんな感じのキッチリとした、まるで喪服のような服装をしている。特筆すべくはやはりその葬式帰り三人であろう。何がおかしいって、こんな夜中にも関わらずサングラスなんてモノをしている。太陽クソくらえだ。一体、何を見ているのか。そもそも前の奴は運転なんて出来ているのか、甚だ疑問だ。
 後部座席は左側から白衣を着た男、大きな箱、前の二人と同じようにサングラスをしている男の順番で、ずいぶん狭そうに座っていた。
 運転して前を向いている男以外、皆が墨を流したような闇をぼんやりと見つめている。白衣の男だけはたまに、ちらっと自分の右にある布のかけられた物体を気にしていた。
 ぽつりと、
「で、そろそろ何処に向かってるか教えてくれてもいいんじゃないんすか」
 誰かがつぶやいた。
 その問いに答えるべく運転をしている男が、
「いいか、これはな上からの命令なんだよ。しかも極秘中の極秘のな。ランクはBを超えるかもしれない。だから、口外禁止命令が出されているし、仲間うちでもそれは変わらないんだよ」
「えー、そりゃないっすよ。一応、仕事仲間ですよ? チームっていうのは信頼関係から生まれるものですよねえ」
「だからって上の命令を反故にするわけにもいかんだろうが」
「そうですけどー」
「いいんだよ。実際、俺は運搬物の内容っていう共通の認識のほかに、目的地くらいしか情報持ってないしな。言おうが言わないが、結局変わらないだろ」
「ちぇっ」
「それに、科学者(クリエイター)さんもあんまり言わないほうが都合いいんじゃないのか?」
 運転席の男にそう言われた白衣の男は、視線を少し動かすだけで何も言わず、窓方に切り取られた外の闇を見続けている。それは先ほどからのことであり、白衣の男は他の男たちに話しかけられようがさしたる反応は見せず、視線を遠くへ向けているだけであった。そのため、別段男たちも気にすることは無く車はまた沈黙した。
 何か不気味さが漂うくらい静謐で、確かに一日の終わりにふさわしい夜がそこにある。全員の耳に聞こえるのは、機械がガソリンという血液を流して息を荒げる音と鉄の軋みの音だけだった。
 唐突に白衣の男は、はあ、とため息をついた。
 そして、ガラス越しの闇から視線を、正面へと移す。
 
 それと、同時のことである。

『おい! お前らこんな狭いところに閉じ込めるな! とっととだせ!』
 いきなり、そんな声が聞こえた。
 ガタガタと後部座席の二人の間に挟まれた大きな箱が揺れる。
 どうやら、中に何かいるらしい。
「うわっ。こいつ本当にしゃべんのか」
 後部座席に座っている、白衣じゃない方の男が驚きを口にする。前の男が、
「そりゃあなあ。それが、車使って真夜中に移動するだけの理由だからな」
「まーそれもそうだが……にしてもよー、何でこんなものを作ったんだ? もっとさ、他にやることあんじゃねえの? よう『化物使い』のクリエイターさん」
 化物使い――そんな風に呼ばれた白衣の男は、今まで何を言われても黙っていたのに今度は表情を変えた。
「――他の研究って言えば、なんだよ」
 急に反応したので、サングラスの男は少し戸惑いながらも、
「そうだな……例えばコイキングやイーブイを強制進化させるーとか、ギャラドスを薬漬けにして強力で強暴なベルセルクにしちまうーとか、史上最強の人工ポケモンを作るーとかいっぱいあんだろ」
 黙って聞いていた白衣の男は、ふんと鼻で笑うと、
「――そんなもの、今まで数知れない裏組織がやってきただろうによ。最近じゃ、ロケット団とかな。でもよ、そんなもの作っても結局は意味がねーだろ」
「意味がないってか? 力になるじゃねえか」
 一つため息をつき、
「その出来た力ってのが上手くいってれば、ロケット団なんて滅ばなかっただろうによ。しかも、ガキに消されたんだぜあの組織。その、発明した力があってしても。つまりはその手の力なんざ見かけだけで何の役にもたたねえってことだよ。ったくよ、くだらねえ。おめえ、いつもカップ麺を買う時にフタでだまされてるタイプだろ」
「そ、そんな話関係ねえよっ。でも、強くするような研究じゃないとしてもだな……」
 先ほど揺れた箱を見やり、
「――これ、だってのか」
「あーそうだよ」
 ぶっきらぼうに返事して、白衣の男はまだガタガタしている箱を「静かにしろ」という風に叩いて、再び、はあ、とため息をついた。
 
 そして、そのときだった。
 地震のような振動と、何かの咆哮のような音が聞こえたのは。
 


「うわ!」
 空気が悲鳴を上げる、轟音。
 白衣の男が思わず声を洩らした。
「な、なんだっ!? 地震か!?」
「そんなバカな!」
 男たちは慌てふためきながら、
「やばい! と、とにかく地割れでも起こったら洒落にならねえ、車を止めろ!」
 車は耳障りな急ブレーキをかけて止まった。止まった途端、四人は車外へとまろびでる。
 そんな彼らを包んだのは、車から見ていたのとは比べ物にならないくらい――いや、比べようがないくらいに圧倒的な夜色。もはや、自分が地上に立っているのかすらわからない正真正銘の宇宙。けれど、振動が伝わってくるのだから地面に立っていることは間違いがないはずであって、
――グアアアアァァァァァァッ!!!
 飛び切り獰猛そうな声が夜をかけ抜ける。
「――ポケモンか!」
 誰かがそう叫び、それに答えるように闇にまぎれたポケモンが叫びを上げた。
 真っ黒な中に浮かび上がる、さそり座のアンタレスを思わせる唐紅の双眸。

 また、大きな音が響いた。





 キンセツシティはいわゆる都会である。
 街の中心部ともなれば夜になっても眠ることのないビル街があったりする。他にも、年中無休二十四時間営業の巨大なカジノが金の価値を知らないギャンブラーどもを飲み込むべく街の中央に佇んでいたり、夢から希望からもポケモンからも見放された中年トレーナーとかサラリーマンとかがよく路地で飲んだくれていたりする。遭遇すればもれなく三十分は愚痴に付き合わされる仕組みだ。そんなキンセツシティは、良く言えば都会らしい街、悪く言えば治安の悪い街といった感じだ。
 東西南北から公式道路が通っているキンセツシティはホウエンでも有数な都市のひとつである。ホウエンにひとつしかないサイクリングロードのおかげで、トライアスロンに訪れる人たちが多く、様々な人物が縦横無尽にメインストリートを行きかう。
 そんな都市を支えるのはニューキンセツという一般人の知られざる地下街だ。発電される無尽蔵な電気のおかげで住人たちは不便なる言葉を知らず、今日も欲望を満たすために動き働き、生きるために金を稼ぎ、当たり前のように呼吸する。

 ――キンセツシティ、ポケモンセンターの中。
 どれだけ大きな街でも、ポケモンセンターは必ず街に一つしかないから実に不思議である。
 そんなポケモンセンターには、ポケモンの治療やら以外にも様々な機能が備わっている。例を挙げるのならばトレーナーの宿泊施設。この世の中ではポケモントレーナーが街から街へと強さを求めて旅をするのは珍しいことではない。そんな旅するポケモントレーナーの年齢は最低で十歳であり、そんな尻の青いガキが街中の値段も背も高いホテルに泊まれるわけ無いのは必然のことである。そして、ポケモンが確認されているだけで四百匹近くもいるんだから変態でイエローファンキーなロリコンとかショタコンだってたくさんいるに決まっている。だから、キンセツシティのような危険な夜の顔を隠し持つ街で野宿などさせたら、次の日には身ぐるみをはがされていたりもうお嫁に行けなくなってるかもしれない。そんなことを危惧した政府と協会は、ポケモンセンターに格安の宿泊施設を作った。そういうわけである。その他にもポケモンセンターには食事が出来る食堂があったり、他のトレーナーたちと談笑を交わすことの出来る大きなロビーなど様々ある。
 そして、たくさんの機能の一つである『外部連絡』の機能を使って、一人の若い人間が相手と対話していた。

 そいつはジーパンのような長ズボンと黒いシャツを着ていて、何個か外された襟元のボタンから白い肌が覗いている。真っ赤な帽子を浅く頭に被っていて、帽子の下からは流麗な糸のようにしなやかで漆黒な髪が肩と腰の半分くらいのところまで伸びていた。腰を巻いたベルトにはモンスターボールが一つつけられている。つまりはポケモントレーナーであろう。雪のような白い肌が、人工のライトの下で燐光を放っていた。
「どう、調子は?」
 赤い帽子のそいつは言った。綺麗なソプラノボイス、という感じだ。
 ポケモンセンターにある外部連絡機能は、電話とテレビを足したようなやつである。赤い帽子のそいつは、受話器を右手で持って頬杖をしながらモニタの中を覗いていた。
『いいや、全然だね。ミナモのほうは?』
 ミナモと言われた赤い帽子のそいつは、肩をすくめた。
 モニタの中の短髪をした若い男はうーん、とうなる。
「そう簡単に、見つかるわけが無いよ。何せ、ホウエンにいるかどうかすらわからないんだよ」
『まったくだ。一体、どこへ消えちまったんだあの二人は』
 呆れたように、モニタの男は言った。
「僕もわかんないよ。手がかりなんか、これっぽちもないし」
『ああ、ホントだ。一応、立ち寄る街のジョーイさんとかジュンサーとかに目撃証言とか聞くんだけどな』
「結果は?」
『さっぱり』
「……となると、どこかへ旅に出たとかそういうわけじゃないのかな? てかそもそも、あの二人が消える理由が、こちとらさっぱりなんだけど」
『まあな。手がかりすら一切ねえ、まさに唐突。忽然と姿を消した、そんな感じだよな。二人とも、素振りすら見せなかったし』
「先生はともかく、カスカはカグラですらわからなかったからね」
『そうそう。カグラがわかんなくて、俺らがカスカのことわかるわけなんか無いし』
「まさか……誘拐とか?」
『ありえなくもないなその可能性。けど、先生の部屋の荷物は少し無くなってる感じだったな。先生はあんまり自分の部屋に俺らを入れたがらなかったから記憶は曖昧だけど、少し殺風景になってたし。カスカはモンスターボールしか持って行ってないみたいだった』
「となると二人は自分たちの意志で消えた、ということになるわけだね」
『うん、でもそう考えたとしても理由がわからない。先生が消える理由も、カスカが消える理由も、俺とミナモとカグラが置いてかれる理由も、あの家を放棄する理由も、一切わからない』
 言い終わると同時に、二人とも思うことがあるのか少し俯いて黙る。モニタと人間の間でも流れる、沈黙の空気。
「とにかく、さ」
 最初に沈黙を破ったのは、ミナモだった。
「理由とか原因は先生たちに会わないとわからないんだしさ、僕たちはこうやって手分けして二人探すしかないよ」
『……ああ、それもそうだな』
「ところで、カグラとは連絡取ってる?」
『いんや。まー、あいつはあいつで何とかやってるんだろうから、大丈夫だと思うけどね。カスカのことで少し心配だけど』
「そうだね。ブロムヘキシンだね」
『防御力のきそポイントがあがったね』
 モニタの中の男は、くだらないギャグに呆れたような顔をしている。
「じゃあ、また連絡するよ。なんかあったら、ケータイによろしく」
『りょーかい』
 モニタの画面が黒くフェイドアウトするのを見てから、ミナモは電話を元に戻した。電話が、がちゃりとお礼を言う。
 そして、大きく物憂げな溜め息。
「……いいや。まずは、何か金になる仕事を探そう」
 ミナモは外部連絡のエリアから出て、掲示板を見にロビーへと行った。





 ポケモンセンターから離れた公園のベンチにミナモは座っていた。大体、都会に作られる公園なんてものは利用者のことなどまったく考えていないものだ。国と個人との間で出てきた、使えるようで使えないような土地を名目上有効活用するべく作られた物に過ぎない。だから、この公園はベンチと水のみ場と申し訳程度のドンファン型滑り台とブランコしかない。まだお日様が出ているのにもかかわらず、子供の姿はおろかポケモン一匹見つからない有様である。しかし、そんな様子もでかくて無慈悲で無感動な背の高いビルに囲まれているのを見るとむしろ自然に思えてくるから不思議だ。
「お尋ねポケモンねぇ」
 手に持ってミナモが視線を走らせているのは、先ほどポケモンセンターのロビーにある掲示板で見つけた貼り紙である。ミナモの視線は『見つけた方には報酬金をさしあげます』という文字を追っていた。いわいる、この紙の内容はお尋ねポケモンというヤツで、トレーナーと逸れてしまった行方知らずのポケモンの情報を得るべく作られたものだ。
 だが、そのお尋ねポケモンの紙でトレーナーたちの善意なる精神を狙っているのはごく僅かである。大体が『見つけた方には』というエサがつけられているのだが、稼ぎも効率も悪いこの依頼のような仕事を進んで行おうとするものは、血も涙も無くゴミと酔っ払いしかいない都会には少ない。悲しい現状だった。
 かといって、キンセツなんていう都会には流浪人に近いミナモを雇ってくれるようなバイト先もなく、これ以外で掲示板には金になりそうなことが無かったのだ。
 で、ミナモがなぜそんなものを持っているかといえば、この街に来る道中であまりにも多くの金を使ってしまったためだ。今、ミナモの財布は腹が減ったと悲鳴を上げている。サイフに比例し、ロクに食べ物を食べていないミナモの腹までもが同じような悲鳴をあげていた。
 ぐう、とまた間抜けな悲鳴が上がる。
「お腹と背中がくっつくぞー」
 静寂、
「冗談言ってる場合じゃないよー。腹減ったよー餓死しちゃうよーたすけてー」
 周りに人がいないのをいいことに、ミナモは高く澄んだ声で独り言をつぶやいた。
 田舎ならまだしも、掃いて捨てるほどに人間やポケモンがいる都会なのだ。その中でポケモンを一匹探すというのは、一ヘクタールの範囲にびっしり蔓延ったシロツメクサの群れから一つしかない四葉のクローバーを見つけろ、と言われているようなものである。おまけに見つけたとしてもわずかな金額しか手に入らないのだから、実に効率が悪い。幸せの四葉のクローバーなんてクソくらえだ。

 ミナモはベンチに座りしばらく考え続けた。腹が減っているので、考えることですら大変な作業だが、ミナモは少ないブドウ糖を浪費して必死に悩んだ。今、ここで動いてそのポケモンを探してみるか。だが、もし見つからなかったら無駄足だよなあと思う。けれど、探さなければ自分は飯無しの生活を送ることになる。絶食ダイエットもしくは、本に出てきたどこかの国のラマダーンとか言うやつである。そんなのは嫌だ。まるでホームレスだ。だが、見つかる可能性などあるのか。世の中そんな上手くいくはずがないし、すぐ見つかるようなら自分以外の誰かが既に見つけているだろう。けれど、これ以外に今のところ道は無いし、これから先で見つかる気配はあまり感じられない。ああ、どうしようどうしよう。昨日食べたカロリーメイト半分残しておくんだった。どうしようどうしよう。

 とまあ、そんな感じでしばらく悩んだミナモだが、
「よしっ!」
 と、可愛らしい声で言った。
 心の中で面倒だから、不安だから探したくないという邪な心に餓死したくないという心が僅差で勝利したらしい。
 ミナモはシロツメクサの野原の上、またの名を戦場に降り立つことを決めたのだ。もはや無謀の挑戦である。けれども、ミナモは確率論なんかあてになるかと大して使っていない頭で無茶苦茶な理論を組み立てる。コイキングでライコウに挑むようなものだと思う。けれど、コイキングだって”じたばた”すれば強いのだ。
 ベルトについているモンスターボールをさわり、ちゃんとあることを確認した。
 ふんと、息を吐いて気合を入れる。
 すきっ腹を、どうにか押さえ込む。
 いよいよ、ミナモは立ち上がった。さあ、終わりの見えない戦いの始まりである。
 そう、この物語はミナモが四葉のクローバーを探す話なのだ。
 さあ、物語は動き始め――

 ミナモは、目の前にいたポケモンを見つけて唖然とした。

メンテ

Re: 静かなるベルセルク( No.5 )

日時: 2007/09/25 13:59
名前: 萌希
情報: cap025-076.kcn.ne.jp

初めまして。

私は、「私のパートナーNO2」を書いている、萌希といいます。

この、「静かなるベルセルク」はとっても面白いです。

この話の続きがとっても気になります。
メンテ

Re: 静かなるベルセルク( No.6 )

日時: 2008/02/09 18:52
名前: ところてん
情報: fl1-122-135-122-153.tky.mesh.ad.jp

初めまして萌希さん。
今回は感想を下さりありがとうございますっ
とても励みになります。
これからもがんばりたいと思いますので、私のパートナーNO2の執筆もがんばってくださいませ。
メンテ

Re: 静かなるベルセルク( No.7 )

日時: 2009/02/07 18:14
名前: ところてん
情報: fl1-122-135-121-220.tky.mesh.ad.jp

2.語りネズミ

 目の前にいたポケモンの皮膚は、夏の青空のように瑞々しい色をたたえていた。
 丸い身体をした所々に小さな手足がちょこんと出ている。おなかの部分は雪のような白さの皮膚が円状にあり、鮮紅色に体と同じつやのある群青で塗られた丸い耳に丸い尻尾が可愛らしい。
 そんなポケモンが決心を固め戦いに挑もうとする勇敢なミナモの目の前、であろうことか寝ている。すやすやという擬音さえも聞こえてきそうな、とんでもないくらいに堂々と油断した様子だ。いつの間にこんなところにいたのだと思った。
 だが、そんなことに驚いているわけじゃない。
 ミナモは、先ほどした自分の決意を再度確認してみる。決意の内容は確か、お尋ねポケモンを探して報酬金を手に入れようとしたことであった。
 で、そのお尋ねポケモンとやらが。

 手に持っていた紙を見てみる。
 そこに写っている、青色と白色と赤色を持った丸いポケモン。

 マリルである。

 今目の前で寝ているのもマリルだった。

 ……えーっ

 しばらくの間、ミナモの時間は無言とともに止まった。
 空白の時間が過ぎる。都会には多い車と、時折空を飛んでいるトレーナーのポケモンが時の波に乗って動いていく。排気ガスの匂いがして、誰かが自販機にお礼を言われ、ポケモンの鳴き声が聞こえる。
 けれど、ミナモの脳みそはしばらくの間止まったままだった。
 そして、理解した。
 ああ、これは幸運の四葉のクローバーなのだ、と。
 幸運とは、早く手に入れてしまわないと逃げてしまうものである。そんなことを昔の人は言っていた。
 確かに、こいつは逃げる。
 だって、ポケモンだもの。
 ならば、やることは一つ。
 先手必勝、である。

「も、貰ったああああああああぁっ!!!」
 そう叫ぶと元々点なテッカニンの目が一ミクロンになるくらいの速さで、ミナモはマリルに飛び掛った。がしっと、両腕で飛び掛りながら抱きしめる。地震が起きても離れないくらいの勢いだった。きっと、今のミナモがマリルを抱きしめる力はまきつくを超えていて、ほのおのうずより狂気だろう。
「リル!」
 いきなり人間にのしかかりおよび抱きしめられたマリルは、一瞬で起きてびくりと驚きを全身で表した。当然である。すやすや気持ちよく寝ていたところを、いきなり変な奴に抱きしめられたあげくに頬ずりなんてされて驚かない方がおかしい。バンギラスだってビビる。そんなマリルをよそに、空腹で目がくらんだ哀れな人間に成り下がっているミナモは、
「チャーハンオムライスステーキスパゲッティ! 今日のランチは逃がさない! 神様ありがとう! 僕は信じていたよ!」
 このとおり、あまりの興奮で意味不明な言葉を叫んでいる。周りに人がいなくって本当に、良かった。空腹と言うのは人間をこうまでおかしくする。そう思わないヤツは、このミナモを見てみればいい。一瞬で理解するから。
「リルリルリル!」
 かわいいという言葉を声にしたらそういう声になるんだろうなあ、という声でマリルは鳴き声をあげる。女の子を襲う男の子のような構図でマリルをとうとう地面に押さえつけた。
「なんでお尋ねかしらないけどね! 僕はお腹が減っているんだ。だから、悪いけどおとなしく捕まってもらうよ!」
 そう言って空のモンスターボールを手に持ち、溢れる唾液を咀嚼し、嫌がるマリルを捕まえようとしてミナモは、

「やめろって言ってるだろうがっ!!」

 そんな声を聞いた。
 
 ――ええっと……
 振り返ることにする。背後には先ほどまで座っていたベンチがあり、その上にずいぶん無愛想な色をしたミナモのナップザックがある。ちなみに、ナップザックもベンチも声を出さないから例外。だから、右を向いてさらに左も見る。遊具がある。生まれた時から今の今まで、暇で暇で仕方がなさそうなドンファン滑り台と、風と仲良く戯れるブランコと、ポケモンの糞でいっぱいになった砂場がある。どんなかわいい娘が口を付けても、どんな中年親父がディープなキスをしても表情一つ変えずに使命をまっとうする水のみ場がある。それでも人が来るのか、誰かの置き忘れたスコップが地面にまるで勇者の剣よろしく突き刺さっていた。
 でも、暇そうな滑り台も風と遊ぶブランコも砂もうんこも水道の蛇口もスコップも喋らない。
 じゃあ、誰なのか。
 けれど確かに聞こえた。女の子のような、けれど絶対に人のものではないとわかるような声。

 空耳か。

 うん、そうだろうなあと思ってミナモは前を向きなおし手に抱くマリルを見つめ、
「お前、聞こえないのか。離せって言ってるんだよ」
 かわいい顔に怒られた。

 ……
 ……
 ……

 いや。
 いやいやいやいや。
 まさか、こいつが話すわけはないと思う。
 考えてみる。ポケモンは、普通話さない。当然の常識、常識の当然である。自分は何を考えているのか、脳みそを拷問にかける。待て、仮に話すとしてもそれはエスパーポケモンとかがテレパシーとかそんなもんを使って話す場合とか凄い珍しい場合であって、普通のポケモン、今目の前にいる”みずねずみのマリル”ごときが、そんな芸当をするはずはない。きっと、お腹が減りすぎて頭がおかしくなっているんだろう。普段は小さいゴンベが胃の中にいそうなぐらい大飯食らいなのに、ここ何週間かはカロリーメイトしか食べていない。本能的欲求を押さえつけると人間だめになるんだ、ああきっとそうに違いな

「あーもう! ニンゲンって面倒だな!」

 マリルはそう『言う』と、丸い尻尾でミナモの顔をぺしんと叩いた。
 はうっ、と怯む隙に腕を払いのけ、マリルは地面に人間が腰に手を当てているみたく降り立った。
 ただでさえ、丸い身体を――いや、顔をぷくうと膨らませている。
「お前な、ポケモンが寝ている時に飛び掛ってくるとはなどういうことだ。ふざけんなよ。自分が何をてことをしたか、どうしてもわかんねーっていうならな、お前が寝ているときに水かけてやろうか。絶対にむかつくから」
 マリルは鼻息を荒くしていう。
 一方で、ミナモは何も言えない。こういう状況で何か言うべき言葉というやつをあいにく持ち合わせていない。ただ口をあんぐりとし、マリルを見つめているだけだ。
 頭の整理が、まったくついていない。
「あーあ。せっかく、昼になって寝れるかと思ったのに……本当、ニンゲンってうざいな……」
「――ねえ」
「どうしてこう、ぼくが追いかけられなきゃあかんのだ。せめて自由に寝ることくらいはだな……」
「ねえってば!」
 かわいい顔なのだが、様子はニンゲンの不良が「あぁん?」という風に振り向く感じで、
「何さぁっ!?」
 ポケモンにガンをとばされたのは、初体験である。
 それでも、ポケモンに負けてたまるかと心の中で自分を鼓舞して、
「きみ、ポケモンだよね?」
「そうだよ。何あたりまえのこと言ってんだ。ぼくが、人間に見えるか」
 今日も夜が来るよねという質問に対して、あたりまえじゃんと答えるようにマリルはさらっと言った。
「じゃあ、なんで――「言っておくけど、何でぼくがニンゲン語話せるのかっていう質問は無しだからな。説明するのが面倒だから」
 いきなりマリルがミナモの話に割りこんだ。
 そして、何も言えなくなる。
 なぜなら、図星だからだ。
 と、いうよりミナモではなく他の誰かであっても10人いたら9.9人はこの質問をするだろう。
「じゃ、じゃあ。あ、あのさ。こんなところで、きみは何をしているの?」
 とりあえずミナモは言いつくろった。
 野生のポケモンに”本気で”話しかけたことなど無いので、何を言うべきかまったく思いつかない。いや、恐らく全人類探してもすぐ思いつくヤツなんかほとんどいないと思う。
 マリルは一瞬、目つきを鋭くし、
 ――はぁっ……
 と、故ありげにため息をついた。
 思わずミナモが、
「どうしたの?」
 と、聞く。
 けれども、マリルは目をきつく見開いて、
「うっ、うるさい! ぼくが何でお前にそんなことを言わなければなんねーんだよ!」
 
 ブ―――――ッ!
 マリルの十八番、”みずでっぽう”である。
「うわ! 何するのさ!」
 顔面にみずを受けたミナモは思わず大声をあげる。
「ふんっ! ニンゲンの癖に、生意気なんだよ」
「あ、お前! あんまりな、そういうクソ生意気なこと言ってると優しい僕だって怒るぞ!」
「ふん、別にお前なんて怖くないもんねー……って」
 急に、マリルの吸い込まれそうなくらい黒い瞳がミナモの顔を捉えた。マリルはミナモの顔をまじまじと覗き込む。
 白すぎるくらいの肌に、長い髪。
 ぱっちりした目に、小さな顔。
「――お前、今、”僕”って言ったのか?」
「え? 何? 何のこと言ってるのさ?」
「いや……なんでもない……」
 そして、ふぁああと、どでかいあくびを一つして、
「……それにしても」
 こて。
 急に、俯けにマリルは倒れた。慌ててミナモが、
「ちょっと! どうしたの!? 大丈夫!?」
「ぼくは……」
 ふぁああああと、二発目の欠伸をし、
「眠いんだな。だから、寝る。おやすみ。起こすなよ」
「……はあ!?」
 次の言葉を言う間もなく、マリルはくーくー寝息を立て始めてしまった。
「……あちゃー。寝ちゃったよ……どうしよう」
 いきなり来た嵐が、急に過ぎ去ったみたいであった。
 寝ているマリルをポカンと眺め、ミナモは考える。
 たったいま出会ったばかりであっても、こんな都会の真ん中に放っておくのは気が引ける。
 かといって、このまま運んでいってお尋ねしますのところに連れて行くのはなにか反則な気がした。
 とりあえず、マリルを抱えてベンチに座る。
 寝ているところを見ると、実に普通のポケモンに見える。普通、というのが自分の認識ではよくわからないけど。
「そうは言っても、こいつ喋るんだよなぁ……」
 幻のポケモンなんかよりもよっぽど稀有なんじゃないかな、と思う。
 色々な人たちがこのマリルを見つけたら、きっと捕まえようとするだろう。悪の組織なんかに捕まったらまるでアニメみたいだ。
 そう考えてみると、自分の膝に乗っているマリルが得体の知れない存在に思えてきた。ミナモはぶるぶると身震いして、妄想を取り払う。
 そんな風にしばらくマリルを見つめていたが、マリルの耳に傷があることに気がつく。横にスラッシュを入れたような、大きな傷。
「なんだこれ?」
 傷自体は治っているようなので、傷跡だろう。
 痛みなどはなさそうだが、かなり大きく見ていると非常に痛々しい。
 その傷をしばらく見ていたミナモは、何かを思いついたのか急にナップザックをあさり始めた。薄茶色の布地がもぞもぞと波をうつ。
 しばらくして「あった」と呟き、中から絆創膏を取り出した。そして、すやすや寝息をたてているマリルの耳にペタリと貼りつける。
「よし、これで見えなくなった」
 なんだか、逆に目立つ気がするが生々しい傷跡よりはましだろう。これが何の傷なのかという疑問の答えは見当もつかない。
 とうとう、やることがなくなった。
 ミナモは空腹も忘れてマリルをただ見つめ続ける。
 ポケモンの癖に、言葉を話すやつ。
 今まで見た中で飛び切り不思議なヤツだ。数多く読んだ、どんな図鑑にも載っていない。これまで五百近くの論文やらを読み漁ったがそれでも出会えなかった。もしかしたら、絵本の世界にいたかもしれない。
 そんな存在が、ミナモの手の中にいた。
 

 しかし、ノンキなことを考えているのはせいぜい今のうちなのである。
 こんなに特別なことが起きるというのは、その時点でいつもの常軌から逸しているのであって、他にも連続的に非凡で偶然で珍しくて不思議で、おまけに厄介なことが起こるのだ。


 だからミナモは、いつのまにか黒ずくめの男と黒色をしたポケモンに囲まれていた。
メンテ

Re: 静かなるベルセルク 第一章「ミナモと白衣と語りネズミ」更新中( No.8 )

日時: 2009/02/07 18:14
名前: ところてん
情報: fl1-122-135-121-220.tky.mesh.ad.jp


 あんまり唐突の出来事だったので、自分の周りを囲っている存在が何なのか、すぐには理解できなかった。
 黒いスーツと、黒いズボンと、黒いネクタイと、黒いサングラス。
 唯一つ、サングラスをしていなければ葬式帰りの集団といえよう。
 そんな怪しいを五乗したような人間は置いておくことにする。説明するまでもない。
 問題はポケモンのほうである。
 灰色の毛に、黒い毛がところどころ装飾品のように生えている。そのつややかな黒い毛で尻尾は出来ており激甚と恐怖を生み出す鋭利な爪と血染めの紅の瞳、猛々しい唸り声がそいつの性格を表現していた。
「たしか……グラエナ……」
 ミナモは、無意識にぽつりと呟いた。
「どうやら、やっとお気づきのようデースね」
 集団の中でサングラスをせず黒い色をした帽子を被っている男が、一歩前に出ながら言う。
「はっ! ――あなたたちは!?」
 男は帽子を取り、深々とお辞儀をしながら、
「これはこれは……申し遅れましたデース。私、ある組織の幹部をしております、アクタと言う者デース。以後、お見知りおきを」
 ”アクタ”と名乗った男は恭しく挨拶をした。特徴的な口ひげと帽子から出ているパーマのかかった茶色い髪の毛が、アクタと名乗った人物をよりいっそう怪しげに見せる。
「は、はぁ……って、そんなことより、僕に何のようです?」
「うーん。良い質問デース。実に素晴らしい……そうデースね。お答えするデース」
 アクタは、ぱちんと指を鳴らして、
「ちょっと、ユーの持っている――そのポケモン」
 指す。
 人差し指の先にあるのは、ミナモが”みずでっぽう”をぶちまけられて現在夢の中まっただなかであり、
 喋る
 マリルである。
「こ、こいつですか?」
 その通り、とアクタは大きな声で言い、
「現在、キンセツでお尋ねポケモンとなっているマリルデース。私たちはそのマリルを探していたのデース!」
 やけに「です」を伸ばすので、変な喋り方となっていた。だが、そんなことはどうでもいい。
 アクタは続ける。
「そのマリル、もともとは私たちのものデース。だから、それを私に渡して欲しいのデース。もちろん、紙にあるように報酬はお渡しますから、安心してくれて結構デース」
 アクタは、にやりと笑った。
 困惑した表情だったミナモは、ふと浮かんだ疑問を尋ねる。
「えーと……このマリルを、どうするんですか?」
「いや、それは私たちのポケモンなのデース。ですから、あなたは渡してくれるだけで結構デース」
 あっ
 これは、ウソだ
 ――そう、ミナモは感じた。
 今の最後の言い方は、何か都合の悪いことを濁している。「ウソの見抜き方」という胡散臭そうな専門書に書いてあったパターンの一つだ。あてにならないけど、微かに今、アクタは何かを脳みそで高速ででっち上げた雰囲気があった。
 ミナモは疑念を孕んだ視線で再びアクタたちを観察してみる。
 黒い服装。サングラス。
 それに変な話し方の、帽子を被ったリーダー格。
 これは怪しすぎるだろう。
 これを怪しいといわなかったら、全身タイツの人は皆殺しを目論むテロリストということになってしまう。まるで、マンガのようだ。けれども、昔の事件でもあったようにマンガのようなことが最近じゃ現実でも起こるから、こいつらがただの酔狂か何かでこんな風に怪しい格好をしているわけではないのだろう。現にテレビで見たロケット団の奴らは見るからに怪しかった。
 本当にこいつらにマリルを渡していいのかとミナモは思う。このマリルは、紛れも無く話す珍しすぎるポケモンだ。
 ミナモは先ほどとは変わり、強い口調で言う。
「――あなたたちは、一体、何者なんですか?」
 アクタは表情を変えたが、すぐに先ほどと同じような違和感のある笑みを浮かべ、
「ははは、気にすることはないデース。ただの慈善団体、なのデース。こんな格好で失礼しますデース」
 ほら、また。
 こいつらは、何かを隠しているのだ。それが、良いことなのか悪いことなのかもわからない。けれども、なんとなく、そうこれは直感的にだけれど……悪いことな気がして、
 もし、こいつらが悪い奴らでマリルを渡してしまったら。
 このマリルにはきっと――
「渡せません……」
「はーい?」
 アクタは、狐につままれたような顔になった。
「マリルを……」
 こいつらには渡してはいけない。
「マリルをあなたたちには……」
 言い訳をしよう。
「渡せない!」
 僕は現在、やることがないのだ。確かに、ある目的で旅をしているがすぐに実現するようなことではない。ならば、僕はこの出来事に首を突っ込む余裕がある。
 それに、あんなにこのマリルは眠そうだったのだ。
 せっかく手に入れた睡眠を邪魔したくない。
「ははーん……」
 先ほどの笑いとは違う、おそらくは本当の笑いであろう――いやらしく、癖のある笑い方をし、
「そうですか……そう来るんデースね……私は暴力は好まないんデースがね……しょうがないデース」
 パチッと指を軽快に鳴らした。
「グラエナ」
「ガルルルルッ!」
 アクタの一言で、周囲に殺気が立ち込める。
 複数のグラエナの喉から捻り出す声が、空気を歪と恐怖に震わせた。
「お嬢さん、何を思ったのかわからないデースけどね。余計なことはしないほうが、身のためデースよ」
 先ほどのような、紳士を気取った態度はもうない。
 間違うことなき、悪人。
「な、何をするつもりですか!?」
 じりじりと、男たちとグラエナがミナモに詰め寄る。
「さあ! かみくだかれたくなかったら、そのマリルを渡すデース!」
 ミナモはさりげなく、腰のベルトにくっついているモンスターボールに手をかけた。
「わかりました……答えますよ」
 これほど危険な場面に直面して、あの”わざ”を使うのは初めてだった。大丈夫だろうか、という不安が付きまとう。けれども、信じるしかない。物心ついた時から自分のパートナーだったのだ。自分が何をしたいか、既に理解してくれているはず。
 目を瞑って、呼吸を整える。
 そして、目を見開いて叫んだ。
「嫌だねッ!!」
「残念デース! ならば、やれっ! グラエナ!」
「ガルァッ!」
 咆哮が炸裂する。間近な距離で、グラエナに飛び掛られたらひとたまりも無い。あわれ、ミナモは血だらけになる――かと思いきや、
「チルタリス!」
 ミナモがボールのボタンを押すと、中から赤い閃光が伸びてポケモンが形容される。
 次の一瞬で、ミナモは空中へと飛び上がった。
 空を飛ぶドラゴンタイプのハミングポケモン、チルタリス。
「何!?」
 アクタたちが空を見上げると、既にチルタリスは上空に飛び上がっていた。一瞬でも遅れていたらどうなっていたかを飛び掛った勢いでお互いぶつかり、頭に星をぐるぐる回しているグラエナたちが物語っている。
「逃げるが勝ち!」
 ミナモは今だ眠り続けるマリルを抱えたまま、もこもことしたわたあめのようなところに掴まりながら言った。
 吸い込まれそうなくらいの空色の肌に、ミナモが捕まっている綿雲のような羽、はごろものような尻尾。チルタリスは、ミナモとマリルを乗せて優雅に上昇していった。
「待つデース! 逃げるなんて卑怯デース!」
「集団で袋叩きにしようとしたやつらに言われたくないもんねー!」
 あっというまに、ミナモとマリルとチルタリスは黒い軍団の頭上から消えた。
 
 その場には、真っ黒な男たちとグラエナとお尋ねポケモンの紙切れだけが残されていた。
メンテ
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