alt じゃあ彼女は子猫【にゃんにゃん】 ( No.10 )

日時: 2006/10/30 00:07
名前: 赤山なん

真央が言う。

「だねぇ、なんか楽しそうじゃない?」 

何が楽しそうなのかというと、軽音楽部への新入生が楽しそうなのである。
さらに厳密に真央の心境を描写するとなると、新たに入ってきたキャラクター達
を含めた軽音楽部生活が楽しそう、ということだ。
控えめな性格、細い体格、『あくまで』独特のファッションセンスを持つギター君。
クールでクールなクールの極み、絶対的な冷静さを持つドラマーの女の子、
その他数名の新入生達。……冷静に見てみれば、楽しそうという見解は
微妙に最適な判断ではないような気もしないでもない美由紀だった。

「うん。……本当に退屈しなさそう」

とりあえず退屈が生じるような事は新入生のメンツを見る限り
(美由紀にしてみれば今の現状が既に退屈な日常ではないのかもしれない)
有り得ない気はしたらしく、そう答える美由紀。
真央はその言葉を待っていたかのように優しい笑顔を見せてこう言う。

「やっぱそう思う? じゃあ      」

刹那、美由紀に何らかの気持ちが脳裏をよぎった。
真央はお構いなく、言葉を続けた。猫じゃらし。……いや、筆者の独り言です。

「志保ちゃんと日下君を誘って、後、良も入れてオリエンテーションバンド組みたいな♪」

オリエンテーションバンド、とは。
後々に行われる部内での『定期演奏会』が行われるまでの間『新入生と二回生』が
混合した体勢で組まれるバンドのこと。その後本格的に一つのバンド
として始動しはじめることがよくある。新入生と二回生の割合を
大体のヒフティーヒフティーにするのが通例。
このオリエンテーションバンドには新入生と二回生の親睦を深めたり
新入生の実力を測ったりその他諸々多数の意義があり、
その重要性云々が影響して軽音楽部の慣習の一つにもなっている。

「……俺? ま、まぁいいけど、うん」

ベース担当(予定)我那覇 良。

迷惑そうに見えても嬉しさが隠れていないあたり良らしい反応だった。
脳内で難攻不落、攻略不可能と揶揄された二人の攻略の糸口を
発見したと考えているのかもしれない。
そうでなくとも志保に急接近出来るというのも一つのポイントと言えた。
しかしながら、彼女も彼女で攻略は難しそうではある。
良がベース、志保がドラムという点からリズム隊のコンビネーションが
必然的に発生するため、これは突破への大きな要素とも言えるが、
逆にこれを失敗しようものなら……言わずもがな。
まぁしかし、志保を獲得できるかどうかはまだわからないから
結果論としては取らぬ狸の皮算用そのもの。

圭介に関しては、彼自身の現状を考える限りでは、
多分間違いなく仲間入りさせることは可能だろう。

「オリエンテーションバンド、かあ。そんなのもあったね」

美由紀は含みがあるようにそう咳く。
メンツがメンツなだけにどの方向にどのように転がるかが
読めないため(まぁ初対面の相手が参入している以上、
当たり前の事柄と言えなくもないのだが)やはり彼女自身
思うことがいくらかあったのだろう。  


「私がヴォーカルで、みゆちんがキーボード。日下君はギターだね、
メタリカもコピーできるらしいし、きっと上手くいくよ。志保ちゃんは
ドラム担当ってことだね。良は……大丈夫だよね、うん。ちょうどいい感じ」

「ん……ああ、オッケー」

ジンジャーエールを一気に飲み干して、良は答えた。
炭酸水一気飲みで格好よさをアピールしようという魂胆では
流石にないだろう。

真央の立てた予定に従って分析すると、
新入生:二回生=2:3。 まぁ完全な半分ことは行かないが、別に
この程度のことで不都合が生じるわけではない。楽器の担当も
これまた上手く行っている。真央の立てた計算に今のところ狂いは無い。

「おっけー、決まり♪ みゆちんも大丈夫だよねっ?」
「……やらなきゃいけないことだし、別にいいよ」

美由紀がそう答えて、さらに真央の希望は鮮明な未来となって見えてくる。
二回生の意見は揃った。日下は消去法の挙句に獲得決定。
ヴォーカル、楠真央。ギター、日下圭介、ベース、我那覇良、キーボード、新堂美由紀。
この時点で4人が揃う。

「残りはドラマー、っすか」

良がジンジャーエールに入っていた氷を口の中で転がしながら咳いた。
現実問題、真央がターゲットとしている志保を勧誘するのは
難しい。先輩の言う事だからすんなり受け入れてくれるという可能性も
なくはないが、交渉人の技術が相当なレベルでないとやはり難儀ではある。

「誰があの子を説得する……? つか、できる?」

良は言う。
しかし、そんな事を考えるのは杞憂に終わる事である。
この場面、この状況を打開するキャラクターは、たった一人。

「心配しなくても大丈夫だよ」

真央が胸を張った。まだ志保対策を取っているわけでもないが、
既に勝利を確信したような笑顔も浮かべている。

「私に任せといて♪」

楠 真央は────全てを請け負った。





  +   +  +

更新完了。
細かな打ち合わせの上で書き上げましたが、ちょっと不備あるかもしれません、
表現しづらい部分が発生してたんで(汗
全ては結成のため、歯車が回ります。(



私信:期待に答えられたでしょうか・・・
メンテ

alt 実は天才ドラマーな人 ( No.11 )

日時: 2006/10/29 19:11
名前: 桜姫りる
参照: http://o6c6o.blog.shinobi.jp/


 相澤 志保という人物は入学直後から大量な噂話をされていた。
 二回生の新堂 美由紀や楠 真央もかつてはこんな話をされていたのだが、志保もやはり美人、クセのある性格としてまたされるのであった。

 恋愛についてはもちろんのこと、家系のことや性格の理由など、さまざま。
 しかも、彼女は何を訊いてもただ首を傾げて質問者の瞳を見つめるということで、謎は増える一方なのだ。
 肯定も否定もしないのである。

 どうやら自分がどう言われてようが気にしていないらしい。
 軽音楽に加入した件で何人もの女子に理由を問われていたが、それすら疑問形なのである。
 もしや肯定も否定も出来ないのか、そう思われた。

 しかし付き合いの申し出だけは丁重に断っているらしく、この説は一瞬にして取り下げられた。
 全くわからない人物だ。

 本日も部活動に遅刻間際まで質問された彼女は、いつも通りの無表情で一言だけの挨拶をして部室へ顔を出した。
 志保を見るなり「お、きた」という声が様々なグループから囁かれる。
 本当にギリギリなので、欠席だと思われていたようだ。
  
 きた、という声を聞いて、もう一人の謎の人物、楠 真央は急いで彼女に駆け寄った。
 ぱたぱたと走る姿がどことなく猫のようだ。

「こんにちは、志保ちゃん! 遅かったね」
「……こんにちは。間に合ったので大丈夫だと思っていたのですが。遅いのですか?」
「んもう、志保ちゃんらしいんだからっ」

 対照的な二人の姿がそこにはあった。
 真央は志保の全く冗談の通じない姿に少し口を尖らせた。
 しかし顔は満面の笑みであるので、これが心から言った言葉で無いことが容易に察せられる。

「すみません」
「別に謝ることじゃないよ? まっ、いいや。あのね、話があるの」

 とんとん拍子で話を進めていく真央。
 いつでも顔は満面の笑み。
 それに対して、首をほんの少しばかり傾けてポツリと発言する志保。
 いつでも顔は無表情である。

「何でしょうか」
「えっとね、志保ちゃんってもう誰かと組んだりしてる?」
「いえ、まだです。それが何か?」

 刺こそは無いが、抑揚の欠いた声の淡々とした発言の前では普通の人間の大半が凍りつくかもしれない。
 真央はニコニコ顔で、その会話をむしろ楽しんでいるようだが。

「あのねっ、良かったら一緒に組まない?」

 真央は、志保の目が少しばかり見開かれたのを見逃さなかった。
 困っているのか、嬉しいのかまでは分からないようだが。

「私、ドラムしか出来ないのですが」
「わっ! すごーい偶然だねっ、ちょうどドラマーが居ないんだよね、うちのバンド」

 心から喜んでいるように、真央は飛び跳ねる。
 跳ねた髪の毛が可愛らしく上下している。
 子猫みたいな不思議な人……志保は心でこぼした。

「そうなのですか。けれど真央先輩のような才能のある方とご一緒出来るほど上手ではありません」

 ほぼ棒読みに近い、志保の発言。
 それにも真央はめげた様子は無く、うーん、と眉間にしわをよせて考えています、という顔をする。
 オーバーな表現の仕方がいかにも真央である。

「褒めてくれるのはありがたいけどねー。
  噂によれば、志保ちゃんって中高ドラムしてきて、かなり上手だって話じゃない?」

 数秒の間を置いて、志保は首をわずかに傾けた。

「そのしぐさをするってことはそうなんだ! じゃあ決定だよ♪ 今日から私達と一緒に頑張ってこーね」

(嫌だと言っても、この人には通用しなそう)

 真央とは違う、志保の鋭さ。
 彼女は言葉の使い方が巧いということを感じたらしく、あえて抵抗せずに一言。

「……ふむ。では、よろしくお願いします」


*-----*-----*-----*-----*-----*-----*-----*-----*
【あとがき】

志保さんはこういう人です、というのが分かって頂ければ幸いです。
初めて真央ちゃを書いたのでこゆのでいいのか分かりませんが。汗

打ち合わせさえしてないので、この展開で良かったのだかわかりません。
因みに志保はあまり逆らったりしない性格です。笑

でわお次の和尚さん、ふぁいとです♪
メンテ

alt アダムが耕し、イブが紡いだ時誰がイケメンであったか!いやない ( No.12 )

日時: 2006/11/02 11:21
名前: 和尚 ◆ZbYYEnDztE  <shoutbravo@hotmail.co.jp>
参照: http://d.hatena.ne.jp/mach-3-wheeler/

 春の陽気とは完全に隔離されたほこり臭いアパートの一室で、日下圭介は悶絶していた。

「あーもう……なんで自己紹介もまともにできなかったんだよ!」

 たいして広くもない数畳の部屋の端から端まで転がる。反動でどさっ、と漫画の山が数冊崩れ落ちた。
 いわゆるオタクであるところの圭介は、早くも大学デビューに失敗したのである。

「でも、かわいい女の子は多かったなぁ……なのに、はぁ、最悪だ」
「……俺、独り言多いなぁ……キモい」

 圭介はひとしきり悶えたあとでカップラーメンを食べ、そういえば大学に通うためにこのアパートに越してきてから、弁当屋の弁当とカップラーメンしか食べてないという事実に驚愕しつつ昼寝した。
 
 圭介は3時間ほど惰眠を貪り、少し赤くなり始めた空を安物の薄いカーテン越しに確認してからビデオを起動する。今日は日曜日、撮り溜めておいた深夜アニメを消化するのだ。
 内容のまったくないパンチラアニメをぼーっと見ながら、圭介はふと、そもそも大学デビューって何をするんだ?と思う。
 大学デビューはイケメン、いやフツメンみたいに普通に充実した日常を過ごせるようになること、そしてできれば彼女、いや女友達で結構です、とにかく異性と話せるようになることだな――と圭介は考えた。

「軽音に入ったの、正解だったのかなぁ」

 アニメの中の主人公も大学生だった。特になにもしていないのに、廊下でかわいい子とぶつかり、学食で偶然同席した先輩に誘惑され、図書室に行けばおとなしそうな読書娘と手が触れ合う。

「ねーよ、バーロー」

 主人公は特に何もしていない。むしろ圭介のほうが頑張っている。なのになぜ圭介にはこんな胸ときめくイベントが発生しないのか。
 顔か?と圭介はひらめいた。しかしこのアニメの主人公はフツメンという設定である。
 他にもスポーツ万能だとかIQが200超えてるとか超能力が使えるとか鼻からペプシコーラ3リットルを飲めるとか家に帰ればドラえもんがいてモテ薬を処方してくれる、なんて設定もない。

「なら、なんだってんだバーロー」

 いつのまにか、圭介は不自然に連発されるパンチラシーンより“主人公のモテる秘訣”のほうが気になり始めていた。
 目を見開いて、見る……見る……なんでモテるんだ……秘訣は?
 アニメは主人公の属するパソコン研究部の他の部員たちを映し出していた。全員メガネ。

「メガネかっ!? もしかしてメガネはモテないのかっ!?」

 圭介は悟りに到達したかに見えた、がよく考えてみると主人公もメガネであった。この案は却下される。
 アニメは部員たちが主人公と女の子が歩いているのを目撃して問い詰めるシーンに移っていた。部員たちの全身が見える。
 突然、圭介が手を叩いた。

「わかったぞ! わかったぞ! わか……」

 圭介は叫びながらタンスに突進する。部屋が狭いのでタンスももちろん小さい。血走った目で圭介がひとつの棚を引っこ抜くと、ばさばさと服がほこりをたてながら落ちた。
 おばちゃんがバーゲン品を漁るように、圭介は下着からジーパンまで高速で目を通す。二年前に母親が買ってきたワゴンセール1900円のジーパンが宙に舞った。

「こんなのしかない! ダメだ、これではダメだ」

 律儀に全てをたたんでタンスに戻しながら、ふと圭介は気がついた。なんか自分が行動的になってないか?
 ふとあの元気な真央先輩の顔が圭介の頭に浮かぶ。元気を注入されたのかもしれない。不思議なほど明るい人だった。

「軽音……入ってよかったのかなぁ」







 休み明けの大学は辛いのか、食堂に集う学生もみんなどこか気だるそうであった。
 そんな中にひとり、ラーメンをすすりながらニヤニヤと雑誌を読む、気持ち悪い男(=圭介)の姿があった。
 どうやら今朝コンビニで買ってきたファッション系の雑誌らしい。ところどころラーメンのスープが飛んで茶色くなってはいたが、かまわずに圭介は読み漁っていた。
 食堂のガヤガヤも耳に入らないほど、圭介は今集中していた。

 さて食器を返しに行くか、と圭介が立ち上がりかけた(目はまだ雑誌から離してはいなかった)タイミングで誰かが圭介に声をかけた。
 驚き、おどおどしながら雑誌を後ろに隠す圭介だったが、かまわず相手は自分の用件を語っているようだ。

 30秒ほどで用件は片が付いたようだ。おおかた圭介があっさりとオーケーしたのだろう。
 食器を返しに行きながら、圭介は小さく呟いた。

「真央先輩がバンドに誘ってくれるなんて……ファッション誌を買っただけでこの効果、間違ってなかったな、ありがとう深夜アニメ!」

 “小さく”呟いていたと思っていたのは、圭介だけであったが。







【あとがき】
圭介が変なテンションのキャラになってるぜウヒョホーイ
メンテ

alt Cookie Monster ( No.13 )

日時: 2006/11/19 20:39
名前: クリス
参照: http://crystals.blog.shinobi.jp

 事態に気付いたのは、部室に放置されている日誌に宣言された後だった。普段は部室で暇を持て余している部員が、適当に書いたり見繕ったりするのだが、

 志保ちゃんと日下君、もらいます☆★☆ まぉ with みゆちん&がりょ〜

 こんな爆撃な文を書き込まれたわけである。発見した部員達は声を揃えて唸った。
 ……わからない。
 真央を誘いたかったのに何故。どうしてこんなに曲者揃いのチョイスなんだ。どこからツッコめばいいのか。
 何より、このバンドがどう転がるかなんて、誰もが全く予測できないのだった。


 *  *  *


 火曜、放課後、部室にて。役者は揃った。

 ボーカル楠真央。
 照らす太陽のように明るく温かく、浮かぶ雲のように奔放で掴めない。
 喋るところ、敵無し。
「遅くなっちゃってゴメンっ」

 ドラム相澤志保。
 軽音楽部に舞い降りた不思議の国の少女。
 このバンドにも、未だ何も感じていなさそう。
「いえ、立場も考慮して謝られるような時間ではないです」

 ギター日下圭介。
 オタクにハマりきれも抜けきれもできない悩める少年。
 昨日から少々気分上昇中。
「あ、こんにちは……(てか、新堂先輩と、相澤?)」

 ベース我那覇良。
 空回り気味のお調子者。
 奮闘が報われる日はいかに…… !?
「先輩ぶるのもまだまだだな」

 キーボード新堂美由紀。
 熾烈で苛烈で強烈なツンキャラ。
 実はハートフルなLAMP好きなのだけど。
「他人のこと言えないんじゃないの」

 挨拶も行き渡り、真央が部室のソファに腰を降ろした。

「さてと、早速始めよっか」

 部室にはボリュームを絞ったベース音とギター音が流れている。ベースは八十年代ブルース、ギターはU.K.ロックといったところか。
 入部が確定していない新入生も多い今の頃合は、結成しているバンドもほぼ皆無で(つまり真央による確保は実質、青田買いに近い暴挙だった)、部室も割と静かな事が多かった。

「はい、よろしくお願いします」

 壁に掛けられたホワイトボードに、部室を使える時間割りが今の空白を見せている。曜日と時間で区切られた行列表へ、バンド毎に書き込んで予約するのだ。

(……真央先輩ともう一人の先輩はともかく、やりづらい面子だ)

 部の備品は大小含めギターアンプ四台とベースアンプ二台。タムは四つ、シンバルは六枚のドラムセットが一式。マイク集音を担うミキサーが一つ、スピーカーは二台。キーボードが二台。

「改めて自己紹介すっけど、俺は我那覇良。苗字が珍しいから『がりょう』って呼ばれてる」

 一度に合わせられるバンドは一組に限る。どうしても部室で練習できない時は外のスタジオへ入る事もしばしばだ。
 ただし今は逆に空きだらけで、年功序列で既に決まっている三年バンドか、個人利用と団欒が専らの用途だった。

「定演は六月上旬だから、それまでよろしく」

 真央が机の上で包みを開く。半透明の袋が五つ。中にはクッキーが入っているようだ。
 言葉と共に手を伸ばしたのは、二年の三人だけ。まだ固いかな、と真央はニコニコしながら思うのだった。

「はい、日下君」
「あ、どうも……」

 真央は隣に座っていた圭介に手渡した。丸い袋の表面で指先が触れ合う。圭介は気にしないふりをしているように見えた。

「志保ちゃんも、っあ!」

 真央と志保は対面していた。
 クッキーの袋を軽く放り、と思ったら真央は狙いを外して、その隣の美由紀の方へ渡る。

「……」 美由紀がまばたきも忘れて黙り込む。
「……」 志保は小首を傾げて何も言わない。
「えへへ」 真央がごまかすように髪の跳ねを忙しく触っていた。
(これ多分わざとだ) 男性陣二人は何となくだが確信して思うのだった。

「いるでしょ?」

 ようやく美由紀が口を開いた。

「はい、いただきます」

 今まで止めていた息を吐き出したように、志保も受け答えする。

 部室の空気はいい具合に暖まっていた。



*F.O (フェードアウトと書いてあとがきと読む)*

これは前編です。
書くべき事が多過ぎたので一度投稿しました。
今後の内容に不安があるので要作戦会議です。
メンテ

alt Cream ob Alice ( No.14 )

日時: 2006/11/19 21:13
名前: クリス

「皆、好きなアルファベット教えてくれない?」

 一同の視線が真央に集まった。何を考えているのだろうか。わからなかったが、真央に期待して口々に答えた。
 良はB、志保はR、美由紀はA、圭介はO。
 それを聞くと、真央は紙の上にそれぞれ書いて行く。


 C  O  A
  R  B


 どうやらCは真央のものらしい。
 ペンの動きが止まると、考え事をするように真央は髪の跳ねを触った。
 少ししてから、再び真央のペンが動き出す。アルファベットRとAの後ろに、英単語を作るようにして小文字を並べて行った。


 C  O  A
  R  B  lice
   eam

「Cream ob Alice――繋げてCROBA〔クローバ〕」 顔を上げて真央は言った。「なんてどうかな? バンド名」

 やはり、真央はある種の天才だと誰もが思った。突発的な発想力と行動力。言葉回しを始めとした頭の回転。バンドに直接関係ないと思われがちな才能を、行使して周囲を唸らせてしまう実力。
 あらゆる超絶妙技の天才を凌駕しうる才能の可能性。
 既に頭角を見せているが、このような一大学の部活動に留まっているのが不思議なほどだった。

「じゃ、名前もついたとこで曲でも考えますかい?」

 良が場の空気を見て、ここぞとばかりに口を開く。
 真央も(珍しく)美由紀も、了承したようである。

「二人とも巧いみたいだし、何だってできそうだね」
「いや、そんな」
「何を基準にしたかにもよりますが」

 真央が楽しそうに言うと、新入生二人が個性的な返答をした。

「始めだからコピー曲で間違いないよな」

 良が確認し、美由紀と真央が頷く。
 オリジナル曲とコピー曲。オリジナルについては説明要らず。コピーとは、既存曲を他のアーティストから借りて演奏する事であるが、この時期オリエンテーションバンドにおいて、選ばれる曲は例外なくコピーである。
 本格的にメンバーが確定するのは、おおよそ六月下旬。どんなに本気で結成しても、それまでは待つのが新入生に対する礼儀なのだった。

「私はキーボードある曲なら何でもいいから」
「俺も構わないぜ」

 美由紀、そして良が次々に決定権を委託する。
 新入生二人の希望を尊重しようと暗に言っているのだ。

「二人とも、コピーしたいアーティストってあるよね?」

 志保と圭介が意見を出す気配が無いので、真央が助け舟を出した。
 圭介が何かを言うのをためらっている。趣向がメタルで歌い手が真央だからだろう。
 それを見て、志保は仕方なく先に言わせてもらうことにした。その方が能率的。と志保は内心呟く。

「アイロニーアイズは一度やってみたいと思っていました」

 アイロニーアイズ。通称アイロニー。
 ミディアムチューンやバラードを中心に産出する、訴えのあるメロディーに優れた五人組バンドだ。
 男の歌い手でありながら中性的な高音域が魅力であり、デビューしてからというもの火が点くような勢いで人気を集めてきていた。
 今、注目度は高い部類に位置するだろう。
 演奏技術と音声の再現の難しさから、コピー対象としては敬遠されがちだが、カラオケなどでは好んで歌う女性も少なくない。

 それでもこの面子ならできる、と志保は値踏みして提案したのだった。
 圭介は、弾けそうなギターだったなと少し安心する。
 良は、RYUというボーカルの声を真央が歌ってみるのも面白そうだと思う。
 美由紀は、真央なら何でも歌うしアイロニーで決定かな、と真央を見た。

 真央は相変わらずニコニコしていた。
 うっかり反応するのを忘れてたように口は閉じている。
 やがて、

「え、私?」
「何言ってんの真央。見ればわかるでしょ、あんたがオーケーなら満場一致なの」
「みゆちん、日下君を忘れちゃだめだよー」

 あ、と一瞬全員の視線が圭介に向いたが、「えーと、俺は全然いいと思いますよ」 と答えた途端にまた真央へ戻るのだった。
 少し物寂しさを感じる圭介ではある。
 ともあれ、真央は今まで先輩の誘いなどで多種多様なボーカルを演じてきた。
 例えハードルが高くともアイロニーだって歌ってみせるのだろう。

「アイロニーは、厳しいかな」

 空気が凍った。

「……そんな事はないと思いますが」
「どうしたの真央、今まで何でも歌ってきたと思ってたのに」
「あれってRYUが歌ってるでしょ? 無理ってわけじゃないけど、ちょっと私がなりきれないかも」

 志保は真央の力量を正確に捉えて言ったのだが、納得したようだった。
 ただそういう問題という話。
 髪の跳ねを触っている真央を、美由紀は達観した目で見ていた。

「そうですか、わかりました」
「ごめんね。ホントは色々歌えるから」
「では、LAMP OF BIRDはどうですか?」

 LAMP OF BIRD。略称でLAMP。
 恐らく志保は、新入生歓迎の時に真央たち三人がLAMPの一曲をコピーしていたのを把握したうえで、そのように言ったのだろう。
 確かにこれなら問題ない。
 志保が仕方なく言ったのか、本当に好きだから言ったのかは今は判断付けかねるが、この選択なら丸く収まるだろうと疑いなく思った。

「LAMPか、よかったじゃねーか新堂」
「べっつに、真央のわがままに付き合ってるだけなんだからね」
「あ、わがままって言ったなぁ。みゆちんLAMPが好きなくせにー」
「……だから何だっていうのよ」
「みゆちんLAMPが好きなくせにー!」
「だからそれに何の意味があるかって訊いてんのよっ」
「ちょ、新堂 !? 」

「あのー」

 揺さぶられかけた真央の訴えが悲鳴に変わるところで、美由紀の手が止まった。

 また置いてかれそうになった圭介だが、無理もない。
 圭介にとっては、真央達の発言でようやく先日の曲がLAMPだったと気付く程である。
 でも、今LAMPと知ることができたのだから、どうせならやってみたいと圭介は思った。

「いや、俺も全然いいと思いますよ」

 当然、圭介はそう言うのだった。


 *  *  *


「お疲れ様でした」
「うん、お疲れ〜」

 志保が帰り際に挨拶すると、真央は楽しそうに笑顔で返してくれた。
 さすがに自分が帰るのがそんなに嬉しいか、といった思考には至らないが、志保はこれまた真央にも不思議……というより変わっている先輩だと思うのだった。
 一体、何が楽しいのだろう。

「あ、志保ちゃん」
「はい」

 と、真央が志保を呼び止めた。
 早くも志保は気付いていた。この目は、何かを目論んでいる時のものだ。
 勿論、悪い意味では決してないが。

「志保ちゃんのこと、どう呼んだらいいかな」

 真央は屈託のない笑みで問った。
 あだ名について相談しているのだ。
 軽音楽でも、あだ名で呼ばれている人間が多い。むしろ美由紀や真央は少数派だったりする。
 例えば、我那覇良が「がりょう」と呼ばれているように。
 日下君のことは「圭ちゃん」って皆で呼ぶつもりだけど、と真央は付け足した。

「相澤か、志保でお願いします」

 あだ名は無い方が面倒でなくて済む、と志保は思う。
 真央や美由紀のように、普通に呼ばれるも別に構わなかった。
 やっぱり、といった顔で真央はニコニコしている。

「じゃあ、しぃって呼んでいい?」
 真央は笑顔で言った。
「志保がいいです」
 志保は真顔で言った。
「しぃじゃだめかな」
 真央の笑顔が崩れた。少し困ったように。
「……しぃでいいです」
 志保の真顔は崩れなかった。そして、やはりこの人は天才だと思った。



 さて、明日は特別な校舎の用途で全てが休講、事実上の休日。
 適当にバンドスコアを買い揃えれば練習がすぐにでも始められそうだった。



*F.O (フェードアウトと書いてあとがきと読む)*

書きあがりましたー。今回はいつになく真央を前面に出してしまったと後悔してたり。
それに更新する時間がなかったので荒削りな文章です。
4順目は事実上の休日で普段とは違った様子を書いて行きましょう♪
それでは電車がなくなる前に…。(汗
メンテ