icon ◎tactics

日時: 2007/12/05 21:05
名前: ◆YM7YlXAeYQ
情報: eatcf-125p75.ppp15.odn.ne.jp

 tactics=タクティクス(戦術)
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Re: ◎tactics ( No.1 )

日時: 2007/12/09 08:09
名前: ◆YM7YlXAeYQ
情報: eatcf-80p45.ppp15.odn.ne.jp

   【Scene.1】 ド素人と剣の道



 早朝―――榊原高等学校、
 響き渡る竹刀同士の交じり合いと覇気ある掛け声。
 それは剣道部の部室から聞こえ、この学校の剣道部に所属している生徒達がその根源であった。
 現在男子剣道部に所属安藤謙一も、一応はその一人なのだが、

「――破ッ!」

 刹那、試合相手の竹刀の剣尖がその謙一の喉元に突き刺さる……つまり“突き”。
 技のキレと速さ、共にハイレベルなせいか反応すら出来ずその一撃をいとも簡単に喰らってしまう。
 ジャッジを務める生徒が“一本!”と言い、相手である女子部員―――桂木涼子―――は竹刀を腰に収める。

 正に圧倒的な試合だった。
 悲しい事に、謙一は最初から最後まで攻められっ放しだったのだ。付け入るスキなど、全くと言っていいほどみあたらない。
 情けなく地に突っ伏す謙一に顔を向け、全国でも指折りの強さを持つ涼子は面を外して、

「一週間前よりは随分良くなったんじゃない?でも、やっぱりまだまだね」
「はぁ……どうも」

 褒め言葉に続く痛い言葉で大いにへこんだ謙一は、しかしそれでもペコリと頭を下げる。
 他の部員の注目の中、対戦相手から曖昧な返事を受け取った涼子は顔を少しばかり赤くするが、誤魔化すかのようにフンと鼻を鳴らす。
 その部分にクエスチョンマークを浮かべた謙一だが、先輩達に急かされて持ち場に戻る事にした。

 謙一が持ち場に戻ると、友人の塩田陽平が疑いの表情を浮かべていた……否、他の男子部員もどこか怪訝そうな表情を明らかに自分に向けている。
 またもやクエスチョンマークを頭上に浮かべるも、謙一は再び竹刀を握りなおして等身大の藁人形(わらにんぎょう)に面を打ち込む。
 その健気で一生懸命な姿に、関心と疑惑を浮かべる男子部員に喝を入れる剣道部顧問―――飯島浩二―――年齢は40代前半のオッサンだが、なんと剣道初段の実力を持っているらしい。

「面ッ!……あれ?何か変だな」

 藁人形に幾度も幾度も、飽きる事なく面を打ち続ける。
 素人である謙一はたいていこのような基本動作を、無限地獄のように繰り返していた。
 当初は女子部員(涼子)目当てでこの学校の剣道部に入部する一年生は多かったのだが、飽きるような事しか練習させてくれなかったせいか、その反面で退部する生徒は半分以上いたのである。

 なので、謙一のような新入部員(素人)はそういう意味ではかなり珍しかった。
 下手糞でもド素人でも、ただその剣道に対するひたむきな想いが、強者とも女子部員である涼子を惹きつけたのかもしれない。そうでなければわざわざ直接本人に試合を申し込むような事はしないだろう。


「――面ッ!!あ、今の感じかも・・・・・・」


 榊原高等学校剣道部顧問―――飯島浩二、43歳は意味も無くそんな事をぼんやり考えていた。




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◎tactics ( No.2 )

日時: 2007/12/09 19:19
名前: ◆YM7YlXAeYQ
情報: eatcf-76p60.ppp15.odn.ne.jp

   【Scene.2】 シークレット



 放課後、剣道部の部室に安藤謙一は誰よりも早くここへやって来た。
 それは紛れも無く、向上したいという一心の現れでもあった。
 実は今日の朝練の後、来週の土曜日に九十九里高等学校と練習試合を行う事を、顧問の飯島浩二が男女部員両方に告げたのである。

 試合に出すメンバーは五人―――三年生は三人、二年生と一年生からも一人ずつ選考される―――という事になっている。
 そのため、望みは薄いものの自分にもチャンスが回って来るという訳だ。
 当然、剣道の実戦は身内同士でしか行った事がなかったので、内心謙一も心の中では“試合に出たい”という願望が何よりも強まっていた。

 そしてようやく慣れてきた道着と防具を装備し、自分の剣―――竹刀を左手に持つと、

「安藤君……よね。どうしたの?随分早いじゃない」
「あ、桂木さん」

 振り向けば、既に道着を着けていた桂木涼子が謙一に向かって話しかけて来た。
 実は一瞬だけ心中驚いた謙一だが、すぐさま切り返して返事を返す。

「…………安藤君」
「な、何ですか?」

 と、ずかずかと涼子が謙一に近づき、まるで心を読むかのように彼の顔を覗くように見る。
 その意味深げな行動に緊張が走る謙一、
 そして全国クラスの剣の腕を持つ涼子は、自身ありげにこう言う。

「何か気合い入ってない?多分でしょうけど、来週の試合に出たいの?」
「―――っ……」

 流石は全国を代表する剣道の強者……と思ったのと同時に、どうして自分の心の奥底で熱く燃え上がる“願望”という炎が見えたのだろうか?
 更に図星を疲れた事を見抜かれたような表情を見せられて、何だか大いにへこんだ謙一。

 だがそうへこんでいる時間も与えるくれる事もなく、涼子は自分の竹刀の剣尖を謙一に向かって突き出す。
 必然、ドの付く素人(ド素人)である謙一にその行動の意味が分かる訳でもなく、
 “あの〜、桂さん?”と、少し笑いを混ぜながらやや疑問系にそう返す。

「試合よ、試合!わ、私は選考されないと思うから……今の内に試合でもやってあげようとしたの!」
「え?ど、どうも……有難う御座います」

 咄嗟に謙一は頭を下げ、涼子は“さっさとそこに立つ!”とまだ赤くなった顔で竹刀の剣先を部室内のセントラルに向ける。
 慌てながらも謙一は剣先の指す方向に向かい、そして涼子と対峙する事になる。勿論、試合方式だ。
 他の部員もそろそろやって来る頃……二人共そう同じ風に思ったのか、開戦の合図も示さず動き出す。
 先に仕掛けたのは、珍しく謙一の方だ。

「面ッ!」

 散々藁人形に喰らわせた面、素早く涼子との間合いを詰めて竹刀を振りかぶって切り下ろす。

「うん、随分形になって来たじゃない」
(――!?)

 普段、謙一は涼子の試合を見る限り、如何なる試合でも決して相手に話しかけるような事は絶対にしなかった。それが失礼言語道断だと常に日々心がけているからである。
 しかし今は違う。相手の放った精一杯の面を軽々しく受け止めて、更には謙一を過小評価。
 剣道を心から愛している彼女らしくない行動。故に謙一はこの試合は“自分を磨く為”ではなく、“相手の背を押す為”の試合ではないかと勘付く。

 不思議な事に、それが“勘違い”とは思えなかった……。

「でも、まだ甘いわよっ!」
「―――っぐ……」

 上に弾かれる謙一の竹刀、そこ隙が出来るのを涼子は決して見逃さなかった。
 襲い掛かる“胴”を何とかせねばと思ったのか、握っていた竹刀の向きを素早く変えてその攻撃を何とか防ぐ。
 しかし、その一撃に謙一は不信感を感じる。

(……でも、違う)

 いつもの彼女が放つ胴打ちはもっと振りが早く、陽炎が揺らいで見えるような攻撃だった。
 今したが謙一に向けた胴打ちは明らかに手加減をしている―――否、してくれているのである。
 そうでなければ、もう既に決着は着いていた筈だ。

 同時に、謙一は嬉しかった。
 外には出さないものの、内では恐れていたのだ。このまま自分は三年間“ド素人”で終わってしまう事を。
 だからこそ、藁人形をボロボロになるまで竹刀を振り回していた。誰かに自分を認めて欲しかった。

―――榊原高等学校剣道部に所属する……安藤謙一として。



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